Q. ―純真な刃―
俺はどうする
撮影2日目。
学校の昼休みに早退してきた成瀬は、ヘアメイクを済ませたあと、すでにできあがったスタジオを土足で荒らすようにカメラのそばまで横断し、
「監督。どういうことですか」
挨拶もなしに詰め寄った。
ちょうど話し合いが終わり、昼休憩に入った風都は、おっ、と手を上げた。成瀬の神妙な面持ちにニヤリと薄ら笑う。
「行ってきたんだな、あの城に」
「行きましたけど……」
「どうだった?」
「どうも何も、よくわかりません。どうして監督は、俺をあそこに行かせたんですか」
「ハハ。いずれわかるさ」
「何それ。今教えてくださいよ」
「大丈夫。自分で気づけるときが来るから」
あわてんな、と言いながら口で割り箸を真っ二つにし、配給された焼肉弁当を開けた。監督用の椅子でひとり食べ始める。濃厚なタレの匂いが充満する。
詮索の余地がなく、成瀬はふてくされながら隣の空いている椅子に腰かけた。
「円も弁当いるか? まだあまってんぞ」
「いえ、持参してます」
「お。珍しい」
「たまり場にあったんで」
「へえ。今の奴らは自炊してんだ。えらいな」
成瀬はカバンから台本とサンドイッチを取り出した。肉厚なカツサンドとふわとろたまごサンド。喫茶店で出てきても遜色ないクオリティー。まさかヤンキーが作ったとは思わないだろう。料理レベルをここまで上げているのも、女王への献身なのか。なんて甲斐甲斐しい。
カツサンドをひと口食べてみる。ジューシーだけど脂っこくなく、味がしみていておいしい。愛が詰まってる。
(すげえ……。愛されてんな……)
あっという間に全部平らげてしまった。
「そういえば、あいつ元気だったか?」
「あいつ? 女王のことですか?」
「ちがうちがう。汰壱だよ」
「は? 汰壱? なんで?」
眉をひそめれば、風都はきょとんとする。
「なんでって、甥っ子を気にするのは当たり前だろ」
「おい……甥!?」
「……聞いてなかったのか。まあ、会って間もない奴に、身の上話はしないか」
初耳情報に、成瀬は唖然とした。油断していた。ここにきてまだ初出の小ネタがあるとは。監督の親戚だなんてパワーワード、いったい誰が想定できるか。
「監督んちに泊まること多いけど、あいつに出くわしたことないですよ」
「お前が来るようになったのは最近だもんな。高校入学したてのころは家に居候してたんだが、今はすっかりたまり場に居座っちまったよ」
「ええ……。あいつ、そんなことひと言も……。過激派ファンって言ってましたよ」
「ああ……それは遺伝だな」
「は?」
「汰壱の親……俺の妹なんだけど、極度のブラコンなんだよ」
「……それで家族全員監督推し……」
辻褄が合ってしまった。