ナツマツリ


ぬっ、と。音もなくテーブルの傍らに現れたその人。


胸元に付けられているプレートに目を向ければ、"店長"と記されていた。


「カレンさんが食して下さったのは一度きり、ですけれど。味付けも当時のまま変えていませんので、是非お試し下さい。」

「あ、はい、ありがとうございます…。」


どぎまぎと言葉を返せば、店長さんはニコリと微笑みを携えて店の奥に消えて行った。


「……、びっくりした。」

「忍者かよ。」

「あたし、これにしようかな。」


そう言って指し示したのは、先刻オススメされた商品。


ラテマキアートの上に、クリーミーな泡が丁寧にトッピングされたもの。加えてコーヒー豆にもこだわりがあるらしい。


「んじゃ俺ブラック。」

「やっぱりそれは変わらないんだ…。」


< 117 / 232 >

この作品をシェア

pagetop