ナツマツリ
「…ふーん。」
あ、疑ってる。ジト、とした彼女の視線を受けつつも真実を言うつもりはない。
別に佳奈を信頼していないとか、そんなつもりは微塵もなくて。ただ、風化した筈の想いから腰を上げられない自分自身がよく分からないだけ。
まあ、新しい恋をして傷つくのが恐いっていう言い訳のようなものかもしれない。
「それより佳奈は、どうなの。」
「、」
この間の合コンでいい人見つけた、と騒いでいた彼女を思い出す。付き合うことになったのかな。
しかし、そんなあたしの予想に反して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた佳奈は。
「…今はあたしにはナツだけでいいのー!」
「(あ、ダメ男だったんだ。)」
大学に入学してから今日までの日常を具体化したような、そんな昼下がり。
今回の帰省があたしの恋の始まりになるなんて、このときは少しも予想していなかったんだ――…。