きっとサクラが咲く頃
「ごめん若園君、急ぐね。また」
若園君の言いたいことを遮って…私は改札を駆け抜ける。
そしてロータリーの隅っこに駆け寄る。

駆け寄る先に居る人物は………勿論。

「匠馬?何で?」


匠馬は一瞬ふわっと笑って‐私の頭を腕で包み込んだ。「理由はいるのか?」と。

体温が一瞬私を包み込んだと思ったら…またすぐに腕をほどいて、匠馬は私の顔を覗きこんだ。
「明日の夜、成田に行くよ。何で送ってくれないの?」

「……バス使えばいいじゃん」

直視できずに顔を背けると‐また背けた先に匠馬の顔が着いてくる。

「私は便利屋じゃないんだし……」

「でも俺は、出発の直前まで千聡と一緒に居たい。
そう思うことはダメ?」

真剣に私を見つめている匠馬の目。
私は徐々に視界が滲んできて……隠していた思いが溢れてくる。

「だったら………」
「だったら?」

「置いてかないでよ!!」

ポタポタ涙が溢れて‐止まらない。

「見送りたくないの!旅立つ所を見たくないの!
だって…見なかったら、ただ会ってないだけで済まされるじゃない………。何でわざわざ見せつけられなきゃいけないの………」


徐々に涙と共に、剥がれていく心。自分勝手な弱い心。

ただ匠馬は私を抱き締めながら「ごめん」と呟くように、謝っていた。
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