きっとサクラが咲く頃

その日匠馬は、私の家に泊まった。
玄関を開けて、入った瞬間‐匠馬は「らしい部屋だね」と言った。
「千聡が好きな、パステルの紫とピンクの部屋だ」と。
でも……「俺が知らないものも一杯ある」とも。


ベッドに腰掛けた匠馬は「おいで」と私を手招きしては、隣に座らせた。

「さっき居た男の人、誰?」

「同期の子」

「同期は何人居るの?」

「六人。女の子は四人」

「……俺は何も、知らないんだな」
そう言って俯く匠馬は、私の何倍も…何倍も寂しそうな顔をしていた。


「いつもメールの返信そっけないし…他にいい人できた?」
「……できるわけ、ないじゃん」

だって匠馬は‐あの時に私に、こう言った。
「私のことを一番大切にしてくれるのは匠馬なのに、そんな人必要ないじゃん」

「でも千聡は……それでいいの?」
匠馬は顔を上げて、私を見つめる。

「俺は、あと八ヶ月は帰れない。側に居てやれないんだ。
だから……千聡が他の人見つけたいんだったら、俺は止めないよ」

何で匠馬まで……そんなことを言うんだろう。

「匠馬は……私と居るのが嫌なの?」
「そうじゃないよ」

匠馬は首を横に振って、こう言った。
「千聡のことを…本当に大切だから。
だから、俺が苦しめているんなら…俺自身に納得できないんだよ」と。
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