不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
そうして迎えた中学校の入学式。
青々とした桜の新芽の下、私は許嫁と再会した。校庭を吹き抜ける風に髪を乱した彼は、振り向いた格好のまま私をじいっと見ていた。
私は彼の顔を見て、心臓が口から飛び出そうだった。だって、ものすごい美少年がそこにいたんだもの。
さらさらの黒髪に、綺麗なチョコレート色の瞳が長い睫毛に縁どられている。女の子より白い肌にうるっと艶めく唇。全体の造作が驚くほど整っていて、反則級に綺麗な男の子だった。
彼が斎賀豪……私の許嫁。

『こんにちは』

私は高鳴る鼓動を押さえて声をかけた。

『今日からよろしくね、豪くん』

すると、彼は私を見据えていた瞳をふいとそらせた。まるでもう興味はないといわんばかりの冷たい態度だった。

『あんまり話しかけないで。そういうの面倒だから』

は?
今、なんて言った?
なんとおっしゃったか?この美少年は。

それは彼の愛らしい唇から放たれた言葉とは思えなかった。私は笑顔のままぴしりと固まり、それからきゅっと唇を噤んだ。
聞き間違えじゃなさそう。
だけど、どう返したらいいのかわからない。私、彼の許嫁なんだよね。本当にそうなんだよね?人間違いしてないよね!?

『じゃあね』

豪はそれ以上私と対峙する気はないようで、さっさと踵を返して行ってしまった。

去っていく美少年の背を見つめ、かける言葉もない私はひとり立ち尽くした。完全に『イケメンに話しかけて相手にされなかった女子の図』といった雰囲気だった。

今日この日まで培ってきた許嫁の理想像が、さらさらと砂上の楼閣のごとく崩れ去っていくのを感じた。
最悪の初対面だったことは間違いない。
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