不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「あらたな罪状が出てきそうだね。これは刑事事件にしちゃうんじゃない?」

ブリーフィングルームを出ると昼休みに入っていた。オフィスは男性ばかりなので、昼時は外に食べにいくメンバーが多い。翠がサンドイッチを取り出すので、俺も買い置きのカップ麺で済ませることにした。

「どう裁くかは、俺たちで決められない。連座が多く出ないといいな」

協力者の長親氏も含め、鬼澤に巻き込まれた形の人間もいるだろう。内々に済ませられなくなれば、警察の捜査の手は彼らにも向かう。そう言った意味で、俺たち特務局は敢えて“融通が利く”作りになっているのだ。

本来ネット詐欺犯が関わっている時点で、警察組織に回した方がいい案件だけど、そこはどこも自分の手柄を譲りたがらない。

「私たちは私たちの仕事を、よね。わかってる」

翠は声を落とした。気分を変えさせたくて、というよりいいタイミングだと判断して俺は口を開いた。

「ところで、翠。話は変わるんだが」
「なによ」
「映画に付き合ってくれないか」

翠がぐりんと首をこちらに捻じった。唐突な誘いに驚いた表情をしている。

「映画?……私と?」
「祭と行こうと前売りのムービーチケットを予約してしまった。仕事が忙しい時期で行けないとさ。先週封切りの続編。次の金曜あたりどうだ」

先週からファンタジーアクションの人気シリーズの洋画が公開されている。祭のことは方便だ。
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