不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「うーん……見たかったし、……いいよ」

翠はわずかに戸惑った表情をして、それから頷いた。なんだろう、やはり俺の変化に違和感を覚えているだろうか。一応、前回ラーメンを食べてから、誘いは一週間空けてみたんだが。
翠がおずおずと尋ねてくる。

「あのね、遅くなってもいい?その日」

遅く……それはどういうことだ?映画のあと、時間を取れってことか?
なんだ、翠。いきなり積極的に……。
動揺しつつ俺は答える。

「ああ、いい。金曜だしな」
「ホント?じゃあさ、終わった後、ホルモン専門の焼肉食べに行かない?」

翠が携帯の液晶を見せる。そこにはクーポンが表示されている。『超牛』というよくわからない店名とホルモン全品20パーセントオフの表示。

「この日しか使えないクーポンでね。家族で行こうかな~って思ってたんだけど……豪と映画の後に行ってもいいかなって」
「いいのか?」
「うん、お母さんが内臓系あんまり得意じゃないし。ちょうどよかった」

翠が嬉しそうにほわっと微笑む。
なんだ、焼肉の誘いか。妙な誤解をするところだった。口にしないでよかった。

「じゃあ、席取っておくから、定時であがれるように尽くそう」
「そうだね。ま、私は余裕ですけど」
「俺の方が余裕だな」

こんなやりとりもゆとりを持って交わせる。よし、次の金曜は許嫁間の仲を深める機会にしよう。



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