不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
廊下の端にある資料庫に向かう。いつもの手順で指紋と虹彩を読み込ませると、ピー、カチャと軽い音を立てすんなり鍵は開いた。

「開くぞ、普通に」
「中、誰もいないっすよね」

念のためと資料庫に一歩足を踏み入れると、間を置かず背後でドアが閉まった。
振り向いた時にはドアはかちゃりと自動の施錠の音。

「おい、田城」

外の後輩に呼びかけるが無反応だ。どころか、ぱたぱたと廊下を走り去るような音。慌てて、内側から開錠を試みるも、ドアの不調は本当らしい。ぴくりとも動かない。
もしかして俺は閉じこめられたのか?

「困ったわね」

背後から声がした。弾かれたように振り向けば、そこには風間恋子がいた。全然困ってなんかいない顔をして。

「風間さん」

察しがついた。田城は風間さんの部下だ。

「わざわざ一緒に閉じこめられるなんて、一体どんな要件ですか?」

さすがに声が剣呑なものになる。風間さんは動じない。

「やだ、わかってるくせに」

クスクス笑って彼女は言った。

「大丈夫、明日の朝には田城が開けにくる約束になっているから」

明日の朝……。それまで俺はこの人とここにいるのか?翠との約束までもう一時間もない。

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