不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
携帯を持ってこなかったことが悔やまれた。ほんの一瞬の用事とはいえ、ポケットに入れてくるべきだった。
俺は内側からどうにかドアを開けられないか、チャレンジしている。さすが国家機密クラスのブツが入る資料庫は違う。俺ひとりでどうこうできるロックじゃない。さらにドア自体も銀行の金庫クラスの鉄を使っているので蹴散らすこともできない。

「こっち来たら?」

奧にひとつだけある椅子にかけ、風間さんが余裕の笑みを浮かべる。

「行きませんよ」
「なんで?私と何か起こっちゃいそうだから?」

からかうような声に、怒りすら覚える。何か起こしたいのはあんただろう。密室で一晩のうちに俺を篭絡する気だろう。あわよくばオフィスセックス、何もなかったとしても、資料庫に閉じこめられ一晩一緒だったと事実を吹聴するに違いない。
ドアに向かい合うのを一時やめ、距離を取った状態で風間さんと向き合う。

「田城に連絡してください。外側からならまだ反応するでしょう」
「いやよ」

風間さんはにこにこしている。

「せっかくだし、朝までふたりっきりって言うのも悪くないじゃない」
「俺は嫌ですね」
「もしかして、この後可愛い婚約者さんとデートだった?」
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