不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました

翠に誤解された。
誤解というかなんというか、ともかくあれ以来翠は口を聞いてくれない。怒って無視しているというより、さらっと距離を置かれ、プライベートな話をさせない空気を出してくる。俺を避けているため、朝は早めに来るのをやめたし、仕事を終えればあっという間に帰っていく。

あの日中に携帯にメッセージは送った。
『風間さんに仕組まれて資料庫に閉じ込められた。映画の約束に間に合わなくて済まない』

メッセージは既読がついてそれっきりだ。
誓って何もない。俺は潔白だ。
翠との約束に間に合わなかった上に携帯が手元になくその連絡ができなかったこと、結果的に翠に助けられたことは俺の落ち度であり謝罪すべきとは思うが、何も無視することはないだろう。

だめだ。連日翠に無視されていると苛立ちが湧いてくる。
ここでひと言嫌味でも言えば、いつもの喧嘩のスタートだ。それをしないために、良好な関係を築きたいのに。

いや、これはたぶんなんだが、俺自身が誤解されたままでいるのが嫌だ。不誠実な男のレッテルを貼られたままなのも嫌だし、翠に理解されないのが嫌だ。
翠は俺の妻になる。誰よりも俺を理解してほしい。そんな欲求がある。

とにもかくにもきちんと話せないまま数日、その日俺たちは局長から呼ばれた。

「潜入調査ですか？」