不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「金曜の夜に六本木のサパークラブ・Rだ。黒瓦組の若頭がお気に入りの遊び場。鬼澤は来ないが、鬼澤の息のかかったK省の若手が顔を出す。若頭と接触しているところを押さえよう」

それは目視確認と可能なら写真を撮れということだろう。場所はわからないけれど、俺と翠でできるだろうか。

「K省側からの依頼なんだ。鬼澤とその一派をあぶり出しておきたいんだろう」

K省は事務次官である鬼澤を追い出すために動き出したようだ。おそらく本件の指揮系統は大臣と大臣秘書だろう。

「局長、朝比奈は黒瓦組の若頭に顔を見られています」

俺の横では翠が背筋を伸ばして立っている。
翠は顔立ちもスタイルも整っていて目立つ。若頭は自分がホテルでナンパした相手だと気づくかもしれない。

「客層が若いから、豪と朝比奈は中に入ってもらうのが適当だ。今回はおまえたちだけじゃない。特務局全体で動く。サポートは適宜入れていく予定だから心得てくれ」
「充分、気を付けます」

翠が俺を制するように言った。今回の仕事から手を引く気はないようだ。
詳細は今日ミーティングで、と言われ、俺と翠はデスクに戻った。

「迷惑をかけるつもりはないわ」

ぼそっと翠が言った。こちらを見ない頑なな態度に、俺も苛立ちながら答える。

「そうか」

あとはこの翠と意思疎通できない状況で、何も起こらないことを祈るのみだ。

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