不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「行くぞ」

俺は翠に向かって腕を差し出した。カップル役なのだから当然だ。そこは翠も心得たもので、すんなりと腕を絡ませてくる。顔は無表情だけどな。

サパークラブは男性接客の店だとは知っていたけれど、Rというこの店はだいぶくだけた雰囲気で、客層も若者が多く集まる様子だった。入店してみれば、エントランスもフロアも薄暗く高級クラブ然とした豪華さがある。しかし行き交う客は皆年若いか、業界人風だ。がやがやと雑多な雰囲気は一般的なクラブ風にも見える。ショーステージもあり、時間帯によっては何かエンターテイメント的な出し物が見られるのだろう。

通されたカップルシートはフロアの中心部。奥まったところに局長夫妻が座を占めていると連絡が入っている。

そして、ターゲットの黒瓦組の若頭はさらに奧のVIPルームにすでに来ているようだ。ここからでははっきりとは確認できないけれど、黒いカーテンで間仕切りされた中二階の半個室のような扱いらしい。

「若頭はあそこだな」
「K省の若手が来るんでしょう」
「今、雁金さんから連絡。表にその人物がふたり、来ている」

K省の若手職員がここで黒瓦組と親交を深めていることは間違いなさそうだ。
入店時の写真は、外配備のメンバーが撮ってくれるはず。俺たちは適当にアルコールを頼み、雑談をしている格好でターゲットの接近を待った。
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