不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「何してんの?」

中から若い男の声と、複数の笑い声。

「あ、あの、トイレを探してて」
「トイレ、逆だし。普通間違えないでしょ」

この声がたぶん、若頭だ。中の様子ははっきりと見えないが、翠を拘束しているだろうことはわかった。

「興味があったんじゃないですか?VIP席の主に」

別な若い男の声に、若頭が大声で笑った。

「え?マジで?俺に会いに来てくれたの?ってか、この子めっちゃ可愛いじゃん。どこのお店の子?」

身なりが随分違うからか、翠と過去に会ったことには気づいていない。しかし、今の翠でも充分まずい状況だ。

「ねえねえ、お店ときみの名前教えてよ。今度行くから」
「ラッキーだね、お姉さん。この人、お金持ちのお坊ちゃんなんだよ」

からかうような笑い声、翠が答えられないでいる。いや、ここは何も言わないのが正解だ。

「っていうか、もうちょっと仲良くしたいんだけど、俺帰んなきゃならない用事ができちゃってさ。一緒においでよ。用事済ませたら、別なとこでお酒飲み直そう」

若頭が翠を誘う。前回のナンパの時もそう思ったが、この若頭は相当の女好きのようだ。たいしたことない見た目の分際で、チンピラを従え、女を脅すようにモノにする手口が想像できる。
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