不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
中学二年の時に、私と豪が許嫁同士である噂が広まった。私は誰にも言っていないけれど、案外生徒の誰かの親族に斎賀の事情に詳しい者があったのかもしれない。あっという間に広まった噂に、私は否定しては回らなかった。ただ、問われれば答えた。

『私が決めたことじゃない。興味ないから』

そう言えば、皆が私と豪の険悪さを思いだし、口を噤んだ。お察ししますというムードになってしまう。
良家の子女が集まるこの学校でも、許嫁というのはパワーワード。なかなかいないレアケースだったのだ。さらに豪は名門中の名門・斎賀の跡継ぎであり、容姿端麗ですでにモテまくっていた。おそらく豪も、私と同じように周囲に返答していたのだと思う。

高校に入って、背がぐっと伸び、美少年から秀麗な青年に変わっていった豪は、あっという間に彼女をつくってしまった。
許嫁がいようがいまいが、豪にアプローチをする女子は後を絶たない。可愛かったりスタイルがよかったり、女の子たちも様々だ。多くの美少女が豪の隣を競った。応えるように、豪も彼女を次々に変える。

大嫌いとはいえ、許嫁の私もいい気分はしなかった。
私自身は他所で恋人を作るわけにはいかない。許嫁は本家の後継者なのだ。いっそおおっぴらに彼氏でも作って、許嫁として不適格になってやろうかとも思ったけれど、それじゃあ両親と伯父家族に迷惑がかかってしまう。朝比奈を守るためには、豪の女遊びを見て見ぬふりをし続け、自身は貞淑でいなければならない。

華やかな女の子を連れ歩く豪を苦々しく見つめるのは、その後大学時代まで続いた。
こうして私は、斎賀豪が大嫌いと胸を張って言える女になっていったのだった。
< 13 / 180 >

この作品をシェア

pagetop