不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
夢中でもぐもぐ食べていると、豪が皿を置いた。

「風間さんはもうちょっかいをかけてこないから」

不意に言うので驚いてしまった。

「なに、今更」

私がまだ気にしていると思っているのだろうか。風間さんがマンションのエントランスに来ていた事件はもう解決している。同じようなことがあっても、私自身が気にしなければいい。

「翠が嫌な想いをするのは俺が嫌だ。正式に『振った』よ」

豪が感じ悪くニヤッと笑う。

「翠も斎賀の一族だって忘れてるみたいだからな。俺の妻に不快な思いをさせるってことは、斎賀に盾突くのも一緒。財務省にいて斎賀を敵に回して生きていけるわけはない」
「斎賀パワー使ったの?あんたそういうの嫌いじゃない」
「そういうわけにもいかないさ。おまえも、一族も守らなきゃならない。風間さんは、もう言い寄ってこないと言っていたよ。憎々しげだったけどな」

それはまあ……その顔が浮かぶわ。
私が嫌がらせなんかを被らないように斎賀の力で遠ざけた豪のやり方は賢い。
でも、豪は無暗に斎賀を振りかざすやり方は好きではないはず。

豪は最近、一族のための仕事に関わることが増えた。それは、今局長がやっている仕事だ。特務局トップ、ひいては斎賀の長。この国の財を仕切る斎賀の頂点。豪はいつかそういうものになる。

それはどれほどの重責だろう。本人の望む望まざるに関わらず、豪は斎賀のそのものになるのだ。

「あのね、私のことは守らなくてもいいのよ」

私はケーキを置き、豪を見つめる。

「私はあんたの足を引っ張らない。自分のことは自分で守れるし、あんたに守ってもらう手間はない」
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