不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
俺は言葉を切り、長親氏に向き直った。

「あなたを完全に守り切ることが難しい状況です。申し訳ない」

頭を下げると、長親氏が苦笑いした。

「いえ、裏で処理しないほうがいいんです。こういうことは」

K省と財務省の中だけで処理できれば、長親氏を情報提供者として守ることができた。しかし、警察庁と国家公安委員会が振り込め詐欺の関連で引っ張ると言えば、どうしたって鬼澤の悪事に深くかかわってきたこの人にも捜査の手は及ぶ。

「あなたについては、特務局から警察側に申し入れはしています。しかし、まったくの無傷というのは厳しいかもしれない」

「覚悟はしていました。そうでなければ、最初から情報提供なんかしません」

長親氏はどこかすっきりとした表情で言う。

「私は自分のような人間を作りたくなかっただけです。弱くて上に逆らえないがゆえに、悪事の片棒を担いでしまうような。私のことは他の誰のせいでもなく私のせいです。甘んじて受け止めます」

本質的に人が良過ぎるからつけ込まれたのだろう。逃れられない環境も悪かった。

しかし、優しい人間が損をする社会というのは悲しい。少なくとも俺は自分の手で守れる範囲は不利益を被る人間が出ないようにしたい。

「斎賀さん、色々とありがとうございました」

長親氏が頭を下げる。

「最初にお会いした女性の職員さんにもよろしくお伝えください。おふたりにはお世話になりました」

俺は長親氏に挨拶し、先にジムを出た。
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