不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
それは確かに大手柄だ。翠は鬼澤と黒瓦を調べていた際にこの拠点を見つけだし、警察庁に情報を流した後も、現地の管理者と密に連絡を取り合ってきた。そこからのタレコミだったのだろう。
局長が声を張る。

「予定より少し早かったが、これを機に黒瓦組に手入れが入るぞ。特務局は今回応援体制を取っている。お呼びがかかったら、六川と豪はいつでも出られるようにしておけ」

特務局が警察庁、警視庁、国家公安委員会のために人員を割くなんて稀なことだ。
たぶん、俺と翠がサパークラブで無茶をやったときに、局長は方々に頭を下げながら色々と約束を呑まざるを得なかったのだろう。

「翠、やったな」

デスクに戻るとすぐに声をかけた。翠は照れた顔を見せまいとつんとしているけれど、やっぱり表情は『嬉しい』と言っている。

「別にこの程度普通よ」

小鼻がぴくぴくしているけれどな。本当に嘘がつけないヤツだ。

「それより、お呼びがかかったら豪と六川さんが行くの?私は?」
「おまえは目立つから」

どうせ呼ばれても家宅捜査の交通整理とか、車を回すとか雑用しか回ってこないだろう。翠みたいな華やかな女が現れたら悪目立ちしてしまう。黒瓦組の関係者にサパークラブの件を思い出されても困る。

「そういうのズルい」
「ズルくない。適材適所。おまえは本当に仕事が好きだな」
「好きよ、悪い?」

翠の笑顔に、胸が疼く。
彼女のことを思えば、俺にはできることがあるんじゃないかと考えてしまう。
翠を斎賀から解放する方法を知っているのは俺だけなのだ。

その日、俺は定時後に局長の下へ行った。
大事な話をするために。

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