不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
翌日にはタイとシンガポールを拠点にしていた詐欺グループが一斉に検挙されたと報道された。連中は日本企業を偽って現地のオフィスを借りていた。
金の流れる先が黒瓦組であることが報道され、さらに翌日には黒瓦組への家宅捜索が入った。

海外拠点を用意していたのが、T建設である旨は即時報道され、鬼澤の名前が挙がってくるのもカウントダウンだ。
鬼澤とT建設の名前が並びたてば、K省が関わっているオリンピックイベントの会場建設に注目が集まることは間違いない。鬼澤の悪事は暴かれ、公のものとなる。

俺と翠が手掛けたきた仕事はここが着地点となるだろう。

その日、翠は会議室から戻るなり俺を呼びだした。

「ちょっと自販機まで付き合って」

業務中でもその程度、席をはずすのは問題ない。そして俺は翠の話がなんなのか察しがついていた。
翠は無表情だった。その奥に湧き起こる感情を必死に隠しているようだ。

「わかった」

俺は頷いて立ち上がった。
自販機には立ち寄らず、コンビニの前も通り過ぎ、そのまま外へ出た。翠がずんずん歩くので俺は従う。

人通りのない合同庁舎側の路地で翠は立ち止まった。
しかしなかなか振り向かない。背中だけでその怒りが伝わってきた。
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