不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「なんだよ、急用って」

のんきな声で現れたのは多忙の青年社長・陣内祭だ。居酒屋・くらもとに現れた祭はカウンター席につき、ビールとチャーハンを注文する。
祭を呼び出したのは、たぶん俺自身も困惑していたからだ。

自分で決めたこととはいえ、翠の泣き顔を見たら心がぐらぐらと揺れていた。
翠の才知を斎賀に閉じ込めたくない。イコールが特務局から出すことになり、さらには俺との許嫁関係の解消に繋がる。

俺がそこまで望んでいるかといえばノーだ。翠とは結婚したい。やっと心が通じかけたのだ。
だけど、俺との結婚は斎賀に閉じ込めることになる。

まずは翠がもっと自分のために仕事できるように特務局から出してやりたかった。
しかし、それが翠にとって俺からの拒絶と婚約関係を無視した行動だと言われれば否定ができない。

「暗い顔だなー」

祭は乾杯もせずにぐびぐび生ビールを半分ほど飲んでしまった。届いたチャーハンを見て嬉しそうに割箸を割っている。

「この前のサプライズバースデーでうまくいったかと思ってたんだけど、豪と翠」
「そう簡単にいくかよ」

正確にはうまくいきかけていた。それを敢えて壊したのは俺だ。
ぽつりぽつりと喋る俺に祭は頷くだけ。全部話し終えてもいつまでもチャーハンを食べていて顔を上げない。
チャーハンを細い身体にしまってしまうと、ふーと満足そうなため息が聞こえてくる。睨むと、祭はようやくこちらを見て話し出した。

「豪は自分本位で勝手なところがある。自分が正しいと思ったら曲げない。それは昔から」

いきなりの否定に面食らう。祭が続ける。
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