不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「まあ、それが魅力ではあるよ。ただ、今回のことはあまりに説明不足じゃない?翠に言えばよかったんだよ。『特務局の危ない仕事はさせたくない。斎賀の外で仕事したいなら、上に頼んでみよう。翠は仕事ができるから、きっとその方がいい』」

祭はつらつらと言って、にやっと笑う。

「なにより一番大事なことを言ってない。『全部おまえが好きだから考えた。どんな形でもおまえと結婚したいことには変わりない』って」
「祭、おまえ簡単に言うけどな。俺との結婚イコールが翠の将来を奪ってるんだよ」
「はたしてそうかなぁ」

祭はビールを追加で頼み、俺に向き直った。

「翠は本当に斎賀から離れたい?彼女の人格形成に斎賀の一族と、斎賀豪は深く関わってるんじゃない?特にあの負けん気の強さは絶対豪のせいだし」

そりゃ、おまえのせいでもあるだろうと思いつつ俺は頷く。

「翠を解放したいって気持ちは豪の愛かもしんないけど、幾分ヒロイックで自己中だよね。翠の望みの本質を見てないよ。翠の喜びは豪の隣で同じものを見ることだと思うけどな」

俺の隣で同じものを見る。
それは斎賀の嫁としての気持ちではなく、翠の心からの希望だったのだろうか。

「俺のしたことは翠にはマイナスだったのか」
「客観的に見ればプラスかもしれないけど、翠を無視して傷つけたことは間違いないよね」

思わず、苦笑してしまう。そうか、俺はまた自分の価値観で物事を進めていたのか。
祭みたいにしなやかにものが見られたら、考えられたら、俺にも翠の気持ちがわかるだろうか。
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