不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「祭の方が翠の気持ちをわかってるな」
「俺だって自分の好きな子は客観視できないからわかんないよ。豪は翠が好きなんだから、しょうがないでしょ」

俺は翠が好き。言葉にすればなんともあっさりしたものだ。
だけど、それが事実だ。
独りよがりの『翠のため』を考えるより、翠と話すべきなのかもしれない。今からでも間に合うなら。

その時、携帯が鳴った。
局長の名前が表示されている。
時刻は20時。オフィスにいてもおかしくない時間だけれど、ふと胸騒ぎがした。

『豪、朝比奈と連絡がつくか?』

開口一番翠のことを言われ、驚いた。

「電話してみることはできますが」

公用携帯も持っているので、そちらでかけてみる。コール音もしない。繋がらない。

「少し前に朝比奈に黒瓦組の本部に行ってもらったんだ。若頭の愛人が子ども連れてやってきて騒いでるらしくてな」

黒瓦組は若頭が逮捕され、ガサ入れも終わっている。一応、警視庁の公安関係者が常に配備されている。

「たまたま公安の知り合いが来ているときにその話がきて。愛人が取り乱して騒いでいるから女性職員をまわしたいと。公安から出せる人員がいないというのを聞いて、その場にいた朝比奈が自分が行くと請け負ってくれたんだが、その後報告がない」

若頭の側近ならサパークラブでの翠の顔を覚えている人間がいるかもしれない。あの時のキャバ嬢が自分たちを調査していたサイドの人間だとバレたら事だ。
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