不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
2.許嫁というか最早腐れ縁



一番に出勤したと思ったら、オフィスには先客がいた。俺の隣の席にこんもりとした人影。近づいてみると、やっぱりそうだ。
朝比奈翠は、デスクに突っ伏してくうくう寝息をたてていた。

この図太さに関しては驚嘆するしかない。普通オフィスで爆睡できるか?少なくとも俺はできない。こうして人が入ってきても気づかないレベルの爆睡って、おまえ、もうそれは早朝出社はやめて自宅でよく寝た方がいいぞ、と言いたくなる。
もちろんそんなことを言えば、百倍返しくらいで反論が飛んでくることは間違いない。

朝比奈翠はかなり気が強い。いや、とんでもなく気性が荒い。いつだって闘争意欲に燃えていて、こと俺に対しては親の仇レベルで嫌っている。

俺は自分のデスクにどさっと鞄を置いた。先輩方が出社する前に起こした方がいいだろう。しかし、肩をたたくなどすれば「触らないで!」と怒鳴られる気もするので、音をたてて起こす作戦だ。鞄を置く音くらいじゃ翠は起きない。今度は引き出しをわざと騒々しく開けた。翠は起きない。しぶといな、こいつ。

「翠」

呼びかけてみたが、翠はまったく反応しない。俺のデスクの方に向けられた顔は安らかで子どもみたいだ。いい夢でも見ているのか口元はだらしなく開き、今にも涎がこぼれそうだ。
隙だらけだぞ、おまえ。それでも俺の婚約者か。電車やバスでもこんな顔で寝ているわけじゃあるまいな。おまえは顔とスタイルだけはとことん良いんだから、痴漢に狙われるぞ。
……思考が父親みたいになってしまう。
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