不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました



季節は流れ、秋がきた。

鬼澤と黒瓦組の若頭は実刑が決まり、世を騒がせた現役事務次官の汚職スキャンダルは一応の幕引きとなった。

情報提供者の長親健三郎は、書類送検にとどまり、今も変わらぬ生活が送れているそうだ。T建設の会長も失脚し、娘婿は退職したという。新しい環境で頑張ってほしいと長親氏の言葉を豪が教えてくれた。

「ちょっと待ってって言ってるでしょ」

私の苛立った声に、豪が面倒くさそうに振り向く。

「11時に外出って決めただろう。時間を守れない翠が悪い」
「先にやっておかなければならないこともあるの。ホント自己中!」

財務省は特務局、私と豪は今日もバディを組んで外出だ。ひとつの案件が終われば次が待っている。政界の金融の見張り人。特務局の仕事はけして表に出ないけれど、私たちにしか務まらない仕事だと思っている。

廊下をいく豪に並ぶ。恋人同士になっても相変わらず豪は意地悪で偉そう。
上から目線で私に指示を出すんだからやってられない。

「翠」
「何よ」

エレベーターホールに到着するなり、いきなり豪が私の脇腹を掴んだ。
服の上からむんずと容赦なく。

「ひぎゃっ!」

私はわけのわからない悲鳴をあげ、身体をよじらせる。
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