不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
*
小学生の頃から、年に一度送られてくる許嫁の写真は、俺の密かな楽しみだった。
翠という同い年の少女は、まるで人形のように愛らしく、俺は自分の将来の妻が本当に同じ人間なのかと疑うほどだった。もしかして精霊か妖精じゃないか?妖精は俺と結婚できるのか?などとファンタジーなことも考えたものだ。
中学の入学式で初めて会った実物の翠は写真の何倍も愛らしかった。大きな目、サラサラの濃い栗色の髪、柔らかそうな頬は薔薇色で、本物の妖精かと思うほどだ。
しかし、そんな許嫁に微笑みかけられ、素直に笑顔を返せないのも中学一年の男子だった。
こちらは思春期真っ只中だ。可愛い女子に話しかけられ、まともに受け答えできるわけない。それに俺たちは許嫁という立場。俺が歩み寄ればあっという間に交際スタートだ。それは早すぎないか?まだ12歳で彼女がいたら、周囲に冷やかされないか?
検討の結果、俺は翠と距離を取ることにした。彼氏彼女の距離には寄らない。あくまでクラスメート。あくまで知り合ったばかり。
そんな俺の素直じゃない態度は彼女に悪印象を与えたようだ。翠は早々に俺に幻滅し、こちらに寄ってこなくなった。それどころかありとあらゆることで対抗意識を見せるようになっていった。
気にくわない同級生に勝ちたいという気持ちなのか、俺の態度への仕返しなのかはわからない。とにかく俺と競うのだ。