不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
こうなると俺も翠に負けるわけにはいかなくなる。
もし、翠が「豪さんは私に負けるくらいなので将来性がありません。婚約は破棄させてください」なんて言い出したら、俺の責任問題だ。未来の妻に負けるなんて本家の跡取り失格だろう。
それに、俺自身は翠と結婚するのが嫌というわけではない。むしろ、翠の容姿や頭脳は、斎賀本家の嫁にふさわしい。いや、翠をおいて他にいない。

俺は翠に負けないことで彼女との絆を保ってきたつもりだ。そのせいか多分に彼女に恨まれることにはなっているが。

翠と許嫁関係にあることを流布したのも俺自身だ。中学2年にあがった頃、友人のひとりが翠に好意を見せ始めた。
『朝比奈さん、好きなやついるのかな』という友人に内心焦りながら『朝比奈翠なら、家の決め事で将来結婚することになっている』と答えた。まるでテストの範囲をいうかのごとくあっさりとした事実報告に、俺側の好意を感じ取れるはずはない。

俺が相手では敵わないと友人は恋心をさっさと諦めた。我ながら不本意ではあるが、最高の虫除けだ。許嫁が俺なら翠に寄ってくる男は減る。

それもこれも斎賀のため。
翠は俺と結婚する。
それが斎賀のためであり、本家の跡取りである俺の使命だ。
< 22 / 180 >

この作品をシェア

pagetop