不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
中学3年の冬のことだ。その頃俺は少しやきもきしていた。翠に男の影が見えていたからだ。
相手は中等部の風紀委員の先輩で、その時高等部の一年だった。頻繁に翠と帰る姿を見かけたし、翠もまんざらではない様子。

このまま他所で恋人を作られると厄介だ。女は感情で生きている。恋人のために家を捨てることができるのも女ならではの強さだろう。そうなっては困るのだ。

『先輩と付き合ってるのか?』

ある日、俺は思い切って尋ねた。偶然ふたりきりになった放課後の教室だった。
普段お互い距離をとっている俺たちがこうして向き合うのは珍しかった。
自然に聞いたつもりだったが、心臓がばくばく鳴っていたのを覚えている。翠がなんと返事するか、考えるだけで胸が詰まりそうだった。

『豪は穴原さんと付き合ってるの?』

質問には答えず、翠が質問を返してきた。ずるい気がしたが先に答える。

『穴原は生徒会が一緒なだけだ』

事実そうだった。同級生の穴原からの好意は感じ取っていたけれど。

『思うんだけど』

翠は不機嫌そうに言った。

『どうせ、いつか結婚しなきゃならないんでしょ?私たち。それなら、結婚までの恋愛はお互い干渉しない方がいいんじゃない?』
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