不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
どくんと心臓が大きく鳴り、俺は凍り付いた。
その言葉は……やはりあの先輩と付き合ってるってことか。そしてそれを許嫁の俺に容認しろと言っているのか。いずれ結婚は応じてやるから、若いうちの恋は見逃せということか。

胸の奥がグズグズと痛んだのを覚えている。15歳の俺は、たぶんあの時傷ついたのだ。不仲とはいえ許嫁を信じていた心が踏みにじられた気がしたのだ。

『豪は女子に人気あるじゃない。私に義理立てすることないわよ。豪と私の関係なんて政略結婚みたいなもんだし』

俺へのフォローなのか、そう言う翠を憎く思った。しかし口に出せなかったのは、俺もプライドが高いせいだろう。

『それなら好きにすればいい。俺も好きにする』

翠は怒っているような困ったような顔をしていた。目尻が赤くなっていて、その表情が随分悔しそうに見えた。俺もきっと悔しそうな顔をしていたと思う。

俺は高校にあがって最初に告白してきた女子と付き合った。三年生の先輩だった。彼女とダメになるとすぐに他の子から告白された。
女子の噂は早い。俺は長続きした彼女こそいなかったけれど、常に彼女がいる状態を大学一年くらいまで続けていた。

その間、翠に恋人がいたか俺にはわからない。興味を持たないようにしていたし、翠自身も巧妙に隠していた。外聞が悪いとでも思ったのだろう。
翠から言いだしたことなのだから、好きにすればいいのに。
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