不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました





「おまえたちふたりに頼みたいことがある」

月曜の朝一番で呼び出された俺。隣には翠。正面には俺の伯父で、現特務局局長の斎賀猛がいる。

「この男のことだ」

局長がデスクに置いたのは、ある壮年の男の経歴書。といっても、俺たちが閲覧できる程度の顔写真付きの簡素なものだが。

「鬼澤正作、K省大臣の事務次官ですか」
「この男に公金流用の疑いがある。タレコミは同じK省のOB」

事務次官は官僚としては最高のキャリアにあたる。なりたくてなれるものでもなく、大臣より任命されるとはいえ内閣の許しがないと命じられないポストだ。省務をさばき、各部局を統括する人物だ。

「接待費をちょろまかすなんて可愛いものじゃない。K省が噛んでるオリンピック関連イベントの会場建設で、特定の建設会社に便宜を図った疑いがある。本人の懐には億単位の金が入っていると見られる」
「注目度の高いイベントででかいことをやりますね」

俺の言葉に局長が肩をすくめた。

「絶対バレない自信があるんだろう。現にタレコミはこいつが信頼していた部下からだ。部下は不始末の足切りされて昨年退官している」

悪巧みの片棒を担がせてトカゲの尻尾の役割をさせるとは。俺なら最後まで甘い汁を吸わせて飼い殺すけれどな。いや、俺は不正などしなくとも豊かな人生を送れる自信があるんだが。
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