不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
会合なので、スイートを使うかと思っていたのだけど、一般客室に場所を移すとは用心深い。しばしそこに待機していると、豪が階段で登ってきた。

「エントランスで黒瓦組の若頭を確認した。これから上がってくるぞ」

かち合わないように階段できたのだろう。10階分ご苦労なことだ。

「若頭って私たちとさほど変わらないんじゃない?」
「そうそう。当代の長男で27歳。違法賭博と覚せい剤で儲けてる黒瓦組に、ネット詐欺という稼ぎ場を導入したやり手」
「褒められないタイプの切れ者」
「しぃ」

豪に言われ黙る。エレベーターが開き、噂の若頭が顔を出した。見た目はちょっと派手なビジネスマンといった雰囲気だ。茶髪を撫でつけ、ひょろりと背が高い。割と整った顔をしている。

固唾を飲んで見守る中、若頭が1008号室のドアを開けた。中からスーツの腕が見える。
間違いない。シャツのカフスボタンは鬼澤だ。
豪がすかさず若頭とカフスボタンの腕を撮影する。
私がさっき撮影した写真に、鬼澤のスーツは映っている。カフスボタンまで撮影できているかはわからないけれど、鬼澤に間違いないのは現時点で確認できた。

「俺はエントランスへ戻る。引き続き、T建設の会長が来るのを張り込め」
「わかったわよ」
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