不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
豪が階段で降りていくとほぼ同時にエレベーターが一基到着した。
降りてきたのは、T建設会長で間違いない。60代であろう恰幅のいい男性だ。
すると、その男はなぜか1008ではなく、こちらに向かってくる。たぶんトイレだ。階段横にあるから私の姿が見られてしまう。
我ながら目立つ容姿はしている自信がある。要もないのに、こんなところでぶらぶらしていては怪しいだろう。特に後ろ暗いところがある人間には、不審に映るに違いない。
悩む時間は一瞬だった。私は敢えて、男の前に飛び出した。
目の前を横切って女子トイレに入る。敢えてトイレに急いでいる姿を見せ、隠れているという事実の目くらましにするつもりだった。
しかし急ぎ過ぎて、どかんとトイレのドアに激突した。やってしまった。左肩が痛い。
というか、それどころじゃない。かなり目だってしまった。
「大丈夫ですか?」
私のドジにT建設の会長が反応する。ど、どうしよう。
咄嗟にくるりと振り返り、ごとん背中をトイレのドアに預ける。
「大丈夫です。ちょっと……飲み過ぎてしまって」
「ああ、上のフロアはパーティーをやってるんですね。お気を付けて」
「ありがとうございます」
そのままわざとおぼつかない足取りでトイレに入る。
心臓がばくばくと鳴っていた。マズイ。ターゲットのひとりに顔を見られてしまった。まだ写真に収めていないのに。
降りてきたのは、T建設会長で間違いない。60代であろう恰幅のいい男性だ。
すると、その男はなぜか1008ではなく、こちらに向かってくる。たぶんトイレだ。階段横にあるから私の姿が見られてしまう。
我ながら目立つ容姿はしている自信がある。要もないのに、こんなところでぶらぶらしていては怪しいだろう。特に後ろ暗いところがある人間には、不審に映るに違いない。
悩む時間は一瞬だった。私は敢えて、男の前に飛び出した。
目の前を横切って女子トイレに入る。敢えてトイレに急いでいる姿を見せ、隠れているという事実の目くらましにするつもりだった。
しかし急ぎ過ぎて、どかんとトイレのドアに激突した。やってしまった。左肩が痛い。
というか、それどころじゃない。かなり目だってしまった。
「大丈夫ですか?」
私のドジにT建設の会長が反応する。ど、どうしよう。
咄嗟にくるりと振り返り、ごとん背中をトイレのドアに預ける。
「大丈夫です。ちょっと……飲み過ぎてしまって」
「ああ、上のフロアはパーティーをやってるんですね。お気を付けて」
「ありがとうございます」
そのままわざとおぼつかない足取りでトイレに入る。
心臓がばくばくと鳴っていた。マズイ。ターゲットのひとりに顔を見られてしまった。まだ写真に収めていないのに。