不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
こ、これってナンパ?いきなりナンパ?

「大丈夫です」
「大丈夫な顔色じゃないでしょ」

仕事の最中にナンパする?私のこと怪しんでるの?
いや、そんな雰囲気ない。普通に声をかけただけみたいには見える。
でも、“俺の部屋”って1008号室でしょ?密談の場に連れて行かれるの?
そんなわけないか。きっとすぐに違う部屋を取って連れ込む気だわ。
とにかくマズイ!

「上に戻ってお水でも飲みます」
「それなら、俺んトコで飲んでいきなって」

若頭はひょいと私の腰を抱く。うわうわ、近い近い近い!いきなりそういうことする?プライベートでもこういう男の人は無理だわ。絶対無理。

というか、そもそもこの男は暴力団関係者。見た目は軽い男だけど、中身はとっても危険な男。そして私のターゲットのひとり。

落ち着け、落ち着け。

私はやんわりとその手をはずした。幸いにも若頭の手はさほど力は込められていなかった。微笑んだまま後退る。

「友人が待っていますので。ご心配ありがとうございます」

不自然に響かないとは思う。たぶん!

「あっそ、残念」

若頭がにやにや笑うのを後目に私は踵を返した。内心、心臓が口から飛び出しそうになっていた。

階段で登った11階にはバンケットルームがあり、企業のパーティーの最中だ。立食形式のため、廊下にも人がたくさんいてそこかしこで盛り上がっている。奥の喫煙スペースでは何人かの男性がタバコを楽しんでいる。
私はその横をすり抜け、エレベーターに乗り込むと一階のボタンを押した。

「まずいことになっちゃった」

豪に二つ目のヘマの報告をするのは気が重い。

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