不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「T建設の会長もいつ降りてくるかわからない。部屋まで送るから、それまで酔っ払いのチョロい女のふりしてろ」
「はあ!?」
「ミス二回分、おとなしく言うことを聞け」

こう言われると返す言葉がない。私は最高に不本意ながら、豪に肩を抱かれセミスイートまで戻った。豪は私が逃げ出さないように、誰も通らない15階フロアでも私にくっついたまま。
セミスイートに私を放り込むと、「いいこにしてろ」とひと言。そのままエントランスへ戻っていった。

私はホテルの冷蔵庫からガス入りの天然水を出し、ごくごくと一気に飲み干した。

「はあ、びっくりした」

ベッドに転がり、天井を仰ぐ。
耳に残っている。豪の低い声。恋人を甘やかす優しくて艶っぽい声。

豪と抱き合ってしまった。演技だけど、めちゃくちゃ親密に抱き合ってしまった。
さらにさっきまでずっとくっついていた。こんなにべったりくっついたの、出会って初めてじゃない?

「あ~もう、なんなのよ」

いずれ夫婦になる身だし、今回は任務中だし、別にホントど~でもいいことなのに、私はさっき抱き合った感触に囚われてる。腕に残る豪の温度に胸がドキドキしてる。

仕方ないじゃない!
男性経験ゼロなんだから。誰とも付き合ったことないんだから。

「びっくりしただけよ……ホントに」

私は不本意すぎる鼓動に振り回され、目を閉じた。
数時間後、豪に起こされるまで私はそのまま眠ってしまった。


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