不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「豪と翠は相変わらず?」

相変わらずとはどういう意味か。仕事の点だろうな、と俺は答える。

「ここ二年、新人が入ってこないからな。特務局での俺と翠は万年新人の雑用係だ。お陰様で経験は積ませてもらってるよ」
「あー、仕事の方じゃなくプライベートね。相変わらず、喧嘩ぱっかりしてるの?」
「突っかかってくるのはいつも翠だぞ」

祭は納得したように笑う。俺と翠の関係性を一番近くで見続けてきた男だ。
だから、そろそろ気づいた方がいい。俺と翠の間に円満などという状況はやってこないのだ。おそらくは結婚したとしても。

「性格が合わない上に、翠は俺を嫌ってる」
「性格は似た者同士だと思うけどね。負けず嫌いで、努力家」

祭は言葉を切る。目の前に運ばれてきた焼きそばをどさどさと小皿に盛り、猛烈な勢いで食べ始めた。
祭は酒を飲みだすと、炭水化物がほしくなるようだ。三十過ぎたら絶対太るぞ、といつも言っているけれどやめる気はないんだろうな。

「翠のあの態度は“嫌ってる”じゃないからね。“意識してる”だからね」

祭がもっともらしく言う。口の端にソースをくっつけたまま。

「豪を意識し過ぎて、ああいう行動になっちゃうんだよ」
「あいつ、俺に勝てたことないからな」

ふふんと鼻を鳴らすと、祭が馬鹿にしたように肩をすくめた。いいから、口の端を拭え。

「豪も視野が狭いなあ。翠の気持ちはそういう単純なものじゃない」
「俺が嫌いだから張り合うんだろう?負かしてやりたいんだろう?」
「違うよ。勝ちたいのは、豪に認めてほしいんだよ。翠は豪の視界に入るために、無視できない存在でいるために、ずっと張り合い続けてるんだよ。まあ、無意識だろうけれど」
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