不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
翌週の月曜、俺はチケットを手に翠と話す機会をうかがっていた。翠は出勤が早い。自主的に早くしているようだけれど、この時間に合わせれば必然的にふたりきりだ。
業務外の時間だし、プライベートの誘いくらいしてもいいだろう。
しかし、いざ職場に着いてみれば昨夜からの徹夜組が二名、各々のデスクで突っ伏して寝ていた。調査業務の多い先輩方にはたまにある光景だ。

「しい、雁金さんと六川さん、爆睡してるから起こしちゃダメよ」

寝ているとはいえ、同僚の近くで翠を誘いづらい。職場で翠と俺の関係を知らないものがいないとしてもいやだ。

「翠、自販機までコーヒーを買いに行くんだけど、付き合わないか?」

まずはふたりきりになるために誘ってみる。しかし、翠はすげなく答える。

「今、いらないからいい」
「小銭を処分したいんだ。おまえの分も買うから付き合え」
「喉渇いてないんだってば」

ふたりで話しがあるって匂わせてるつもりなんだが、こいつは鈍いのでまったく気づかない。普通の女子なら俺が声をかければ、ほいほいついてくるぞ。
自販機作戦は失敗。
仕事中にプライベートな話をするのは嫌なので、あらためて昼休みに食事に誘ってみることにした。
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