不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「斎賀くん」

声をかけられ振り向くと、主計局前の廊下で腕を組んでいる女性を発見した。

「風間さん」

風間恋子、俺より三つ年上の主計局の職員だ。
財務省の中でも特にエリートが集められる主計局に燦然と輝く若手の星。
頭が良いのはわかるが、さらに顔がいい。隙のないメイクと隙のないファッション、いかにもやり手といった女性なのに、言動や雰囲気に隙を滲ませるのが上手い。周囲に高嶺の花と思わせない、所謂イイ女タイプの女性だ。

「最近、あんまり顔を合わせないわね」
「そうですね。下っ端なりに調査業務なんか任せてもらってるせいでしょう」
「そうなんだ。特務の仕事って、あまり表に出てこないけど、若手が仕事のメインを張るなんてなかなかないでしょう。斎賀くん、見込まれてるのね」

風間さんは、上品にカールされた長い髪を耳にかけなおし、赤い唇をきゅっと持ち上げ微笑む。

「当たり前かぁ、いずれは特務局局長だもの」
「いえいえ、俺みたいな若輩者には、プレッシャーなだけですよ」
「そんなことを言えるのは今だけよ」

ふふふ、と笑い、風間さんが一歩近づく、背のびするように俺に顔を近づける。何か内密の話かと思えば、声の音量は内緒話ではない。

「ねえ、いつになったら食事に誘ってくれるの?」
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