不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「週末は他の男性のために使ってください。食事はいずれ」
「もう、意地悪。一緒に時間を過ごしたい相手なんて、いつだってひとりきりよ」
「風間さんは、上手いからなあ」
にこやかに断るのもいつもの手法。俺がなびかないのも、この人は楽しいのだ。
「そのうち、絶対時間作ってもらうからね」
「お気持ち、嬉しいです」
風間さんと笑顔で別れ、廊下を曲がるとそこに翠がいた。
咄嗟に思った。聞かれた、今のやりとり。
しかし、思い直す。風間さんの俺に対する態度を、翠は把握しているはずだ。隣の部署だし、彼女の隠す気のないアプローチは、誰の目から見ても明らかだ。
だから、ふたりで会話していたのを見られても特に問題はない。そもそも俺は、翠という婚約者がいるからこそ断っているのだ。
しかし、俺は気まずさに鼓動が早くなるのを感じた。翠の無表情も怖い。
「翠、これ」
手にしたコンビニ袋と釣銭を渡す。一秒ほどの間の後、翠は馬鹿にしたようにふんと息をついた。
「ありがと」
踵を返す翠は、どこからどう見ても不機嫌だった。
「もう、意地悪。一緒に時間を過ごしたい相手なんて、いつだってひとりきりよ」
「風間さんは、上手いからなあ」
にこやかに断るのもいつもの手法。俺がなびかないのも、この人は楽しいのだ。
「そのうち、絶対時間作ってもらうからね」
「お気持ち、嬉しいです」
風間さんと笑顔で別れ、廊下を曲がるとそこに翠がいた。
咄嗟に思った。聞かれた、今のやりとり。
しかし、思い直す。風間さんの俺に対する態度を、翠は把握しているはずだ。隣の部署だし、彼女の隠す気のないアプローチは、誰の目から見ても明らかだ。
だから、ふたりで会話していたのを見られても特に問題はない。そもそも俺は、翠という婚約者がいるからこそ断っているのだ。
しかし、俺は気まずさに鼓動が早くなるのを感じた。翠の無表情も怖い。
「翠、これ」
手にしたコンビニ袋と釣銭を渡す。一秒ほどの間の後、翠は馬鹿にしたようにふんと息をついた。
「ありがと」
踵を返す翠は、どこからどう見ても不機嫌だった。