不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「なによ」

会議室様に長机とパイプ椅子の並ぶ室内、翠は席につきもせず腕を組んで仁王立ちだ。眉をきりりと張り、睨むような視線に怒りを感じる。

「おまえの態度が気になったんだけどな」

俺は前置きもなく、はっきりと言った。

「昨日の風間さんとの件だが、おまえに勘ぐられるようなことは何もない」

翠は一瞬押し黙り、次に嘲笑めいた笑い声を一声あげた。

「そんな弁解をするためにわざわざ呼び出したの?」

弁解と言う言葉に引っかかった。こっちは気遣っているだけで、言い訳したいのではない。やましいこともないし、そもそも翠に交友関係を説明する理由もないというのに。

「食事くらい行けば?結構前から誘われてるんでしょう?」

翠は興味なさげに顔をそらして言う。

「断っているし、今後も行くつもりはない」

俺も少々ムキになって即座に答える。翠が肩をすくめた。

「好きにすればいいじゃない。今までみたいに。恋愛は自由って決めたでしょう?」
「それは十代の子どもの頃の話だろう」
「知らない。いちいち私に言わなくていいわよ。どうせ形ばかりの婚約者なんだから」

それは、この先もお互いを縛り合わないで生きて行こうという意味だろうか。
結婚しても翠は恋人は他所でつくると言っているのだろうか。
俺はそんな浮ついた気持ちでいない。翠とは不仲だし、この先も仲良くできるとは思っていない。それでも、俺の妻が翠なら、俺は翠以外の女性とどうこうなるつもりはない。
少なくとも、その覚悟は決めていた。

しかし、翠は違うようだ。
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