不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました





私の家、朝比奈家は斎賀の分家筋にあたる。
斎賀の名を冠する一族が政府関係者に多い一方で、斎賀の名を持たない一族は民間企業との関わりが深い。官民一体というわけではないけれど、これが長年日本を裏で牛耳っていた斎賀の体制なのだ。

朝比奈はその中でも異質で、代々芸能関係者が多い。芸術分野に秀でた家系で、私の母も若い頃は女優をやっていたし、従兄のふたりは役者とピアニストだ。朝比奈の本家を継ぐ伯父も昔は舞台役者を目指していたそうだけれど、今はテレビ局のプロデューサー。
さかのぼって書家や画家、落語家や文筆家などの文化人を何人も排出している。並べてみれば、なかなか華やかな一族かもしれない。

そんな家に25年前、私・朝比奈翠は産まれた。
この産まれたタイミングというのが最悪で、私の人生を丸ごと決めてしまうことになった。

そう、ちょうど2ヶ月後に斎賀本家に男の子が産まれる予定だったのだ。
その男の子が豪。斎賀本家の次男の嫡子だったけれど、長男に子がいないため、お腹にいる時点で将来の当主候補となっていた。

当時の斎賀当主は決めた。

『この子は将来、斎賀本家を継ぐ可能性が高い。一族から花嫁を決め、共に斎賀の繁栄を託したい』

この本家の跡取りベビーの許嫁に、産まれたての朝比奈の女児───私が大抜擢されてしまったのだ。
< 8 / 180 >

この作品をシェア

pagetop