不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
私が不快にばかり感じていた風間さんはそれでも大人だ。豪からしたら居心地のいい相手なのかもしれない。適度に恋人を立て、適度にリードし、適度に甘える。そんなバランスが大人の女に必須な部分で、子どもっぽく張り合うばかりの私といても疲れるだけだろう。

「局長、本当にすみません。お気遣いさせてしまって」
「いやいや、老婆心ってやつ。豪は子どもの頃から、朝比奈の写真を毎年もらってるんだ。小学1年の時かな。あいつ、アメリカに遊びに行った俺に言うんだよ。『ねえ、翠って俺の奥さん知ってる?』って」

豪の子どもの頃の話は、ほとんど知らないので気になる。
俺の奥さんという言い回しを小学生が使うの?こまっしゃくれた豪なら言いそうだな。

「『会ったことあるよ』って言ったら『あの子って妖精かな?すごく可愛いじゃん。妖精と人間は結婚してもいいの?』って聞くんだよ」

聞いたこともない小さな豪の話に私は瞬時に耳まで赤くなった。

「『愛し合ってたら種族なんて関係ないさ!』って言ったら納得してた。な、可愛いだろ?今は可愛くない生意気なやつになっちゃったけど、あいつの中には小さな朝比奈に恋していた豪くんがいるんだよ」

恥ずかしくて言葉がでない。嬉しいような困ったような気分だ。

「ふたりでゆっくり話すと、違うものも見えてくるんじゃない?」
「はい」

私は小声で答えた。まだ頬が熱かった。
小さな豪の可愛い発言がいつまでも私の心を捉えていた。小さい豪なら優しくできるし、愛せるかもしれない。


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