不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「なんですか?」
「チョコレート。奧さんがいっぱいもらってきてさ。新商品の試作品みたいだよ、取引先がくれたんだって」

箱はコンビニやスーパーで並ぶパッケージというよりは、百貨店のスイーツ売り場でガラスのショーケースの向こうに鎮座していそうな高級感のあるものだ。中身はきっとお高めで美味しいチョコレートに違いない。

「ご馳走様です。でも、いいんですか?」
「たくさんもらっちゃって困ってるんだよ。奧さんが『職場でおやつにしなさい』って言うんだけど、食べ損ねて今にいたります」
「あはは、そういうことでしたら頂戴します」

残業のお供にいいかもしれない。私の表情が緩んだせいか、局長が言った。

「ほどほどで帰りなさい。朝比奈は頑張り過ぎ」
「人より仕事が遅いだけなんです。もう少ししたら帰ります」

このまま局長と一緒にオフィスをしめてしまおうかとも思ったけれど、こうなったらキリのいいところまでやってしまおう。
局長を見送り、パソコンに向かい合う。

すると、間を置かずドアが開いた。局長が忘れ物でもしたのかと顔を上げると、そこには豪がいた。

「え……豪。なんで?」
「お疲れ。『なんで?』ってなんだ。外出からもどってきちゃ悪いのか?」

豪はくたびれたように首を鳴らし、ずかずかとやってくると自分の席にどさっと腰かけた。

「あのアホ局長、面倒な仕事を押し付けやがって」
「たった今帰ったばっかりよ」
「下ですれ違ったよ。幸恵さんとメシだから、あとはよろしくだとさ」

どうやら、局長からの仕事がかなり長引いたらしい。詳細は聞いていないけれど、斎賀の一族関係の仕事みたいだ。
< 92 / 180 >

この作品をシェア

pagetop