不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
「ねえ、時間はいいの?」
「いいも何もない。とっとと帰る。さすがに疲れた。メシ食って寝たいな」

前髪をかきあげ、ため息をついている豪。そうじゃないでしょう。あんた約束はどうなったのよ。

「今日は風間さんと食事に行くんじゃなかったの?彼女、待ってるんじゃない?」
「食事?」

豪が首を傾げた。それから、鼻の先を掻いて答える。

「風間さんがおまえに言ったのか?」
「そうよ、豪と食事に行っていいかってわざわざ断りにきたわよ」
「断った」

断ったって、食事を?てっきりデートは決定だと思っていたので驚いた。

「なんで?よかったの?」
「よかったも何もない。婚約者のいる身で他の女性と食事には行くつもりはないとこの前言ったはずだ。何も聞いていないんだな」

それは確かにそう言っていたけれど、過去の豪は違ったわけで……。

「俺もおまえも大人なんだ。浮ついたことはできないと俺は思っていたがな。翠が恋人を作りたいなら作ればいい。俺はそうしないだけだ」
「恋人なんか作らないわよ!そんな暇ないし」

私は怒鳴った。
私はずっとずっと誰とも付き合ったことなんかないわよ。あんたとは違うんだから。
豪が天井を仰ぎ、しばし黙った。私はパソコンに向かう。

「違うな」

しばらくして豪が口を開く。なにが違うのかわからない。
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