不本意ですが、エリート官僚の許嫁になりました
目を細めて笑う翠はやはり掛け値なしに可愛い。本当に可愛い。
おそらく、俺が翠の仕事を全面肯定したのも嬉しいのだろう。俺に張り合う姿ばかり見ていたけれど、その相手に褒められて嬉しくないはずがない。もっと早く気付けばよかった。

そうだ。これからは翠に対して、“おまえは特別”という扱いをしていこう。
デートに、プレゼント……イベントごとに完璧に仕上げていくのだ。翠は『豪が私のために?』と驚きながらも喜び、いつしか俺に夢中になっているという寸法だ。

まず7月には翠の誕生日がある。クルーズでもセッティングして祝おう。夏の休暇はふたりで日帰りできる範囲で遠出しよう。9月は俺の誕生日だとディナーに付き合わせつつ、婚約指輪を用意。秋ごろには紅葉を見ようなんて京都の嵐山あたりで一泊旅行する。クリスマスから正月は海外で……。

「豪?」

はっとして見れば、翠が訝しげに覗き込んでいる。どうやら、俺は考えに夢中になっていたらしい。

「固まるんだもん。びっくりした。立ったまま寝たかと思った」
「悪い、ぼうっとした」

翠との進展プランを立てていたとは言えないのでごまかす。

「ふふ、わかる。ほっとしちゃうよね。これで鬼澤の件が片付けば、しばらくのんびりできるし」

そうか、これで完全に仕事が終われば、翠とのバディは一回解消だ。ここまでべったり仕事することもなくなる。いや、寂しがる必要はない。局長のことだ。きっと近いうちにまた組まされるだろう。

「長親さんだっけ。あのおじさんも納得できるよね」

翠のことばかり考えてしまう俺と対照的に、翠は今回の告発者のことを考えている。

「そうだな。鬼澤の処分まで俺たちは決められないが」
「いい方向に向かうといいな」

翠が言った。
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