うそつきペン
夕子がうそつきペンを手にした瞬間、あたしの中からうそつきペンの記憶が吸い出されて行くように消えて行くのを感じた。


大事なことなのに。


絶対に忘れちゃいけないことなのに。


あたしの記憶はどんどん消えて行く。


「へぇ……。面白いもの持ってたんだね」


ハッと我に返ったとき夕子の笑顔が目の前にあった。


さっきまでなにか大切な事を覚えていてハズなのに、それがなにか思い出すことができなくなっていた。


「これ、あたしに頂戴」


夕子の手には見たことのないペンが握られている。
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