God bless you!~第14話「森畑くん、と」
「おまえさ、何かあった?」
俺が生徒会室に向かっている時、重森とすれ違った。
何だかエラく御機嫌で、口先で鼻歌なんか歌っている。おそらくクラシックの何か。何の曲だか分からないが、どこかで聞き覚えはあった。
重森と1度、目が合った。ただ、それだけ。
何をされた訳でもないので争う必要もないと、そのまま俺は生徒会室に向かう。
行けば……ドアにまた鍵が。
今更?と不思議だった。後で、これも聞いてみよう。
ドアを叩いて「俺だよ」と伝えると、バタバタと慌てるように右川がドアを開けた。ちょっと不安そうな顔を覗かせた後、俺を見てすぐに笑顔が弾ける。
会えない日が続いた。
ドアを閉める事も忘れて、すぐに右川を抱き締める。
会えて嬉しい。だがそれ以上に、ただ俺は淋しかったんだ、と知る。
そんな俺の切ない感情を他所に、腕の中、いつものように右川は嬉しそうに笑うのだ。変わりは無かった。そう思いたかっただけかもしれない。
ただ、今日はキスが長かった気がした。それも気のせいかもしれない。
話したい事、知りたい事は山ほどあった。
「おまえ大学どうなった?」
右川は「さっそく来週あたりから本番始まるよ」と嘆いて、「みんな、ハルミの言いなりだよっ」とキレた。思わず吹き出したら、「笑う所じゃ無ぇワ!」とブチギレ。
「のぞみちゃんも親も言いなり。自動的に内申書と弁当と交通費が出てきて、逃げらんない」
「いいじゃん。それ羨ましいよ」
俺は、やっぱり笑った。
右川が、はあーとため息をつくので、
「そんなにイヤなら止めりゃいいんじゃないの。いつもの。お得意の」
「嫌でも止めらんない事情があんのっ」
「浅野先生に、弱みでも握られてんのか」と半分笑いながら聞いた。
誰かじゃあるまいし。
ところが右川は「うっ」と呻いた。それじゃまるで……。
「本当に握られてんのか」
「まあそれに近い」
「どんな?」
「そんなヌケヌケと弱みを言うわけな」
そこで、右川は大きなくしゃみをした。
防御本能が働いて、俺は思わず避ける。
「今頃、風邪引いてんのかよ」
「ハルミのお陰で、バカじゃなくなった」
自分で言うなよ、だった。
「気をつけろよ。これから本番なんだから」と、俺は労りの言葉をかけたつもりだったのに、「自分に伝染すんじゃねーって、あんた最低だね。彼氏のくせに」と憎憎しい事を言うので、真面目な心配はそこで終わった。
どうしていつも悪意に、そっちに取るかな。
選挙の話、他の女子が受ける大学の話、藤谷の一発、話題は尽きない。
どう見ても、いつもの右川だった。あえて言えば、何となく顔色が悪い気がした。勉強のせいと、思えば思える。
それはそうと、肝心の聞きたい事が右川から出てくる気配が無い。
なので、こっちから思い切って切り出した。
「おまえさ、最近、何かあった?」
右川は、「え!?」と飛び上がって驚く。
打って変わって激しくうろたえた。
まさか……こんな展開は予想していなかった。
微かに引けるその腕を掴んで、「何だよ。隠すなよ」と、その先を促すと、迫力に押されてなのか、右川は真顔で考え込んだ。
また始まった。
肝心な時、右川は永い永い長考モードに突入する。
今度もかなり手こずりそうだ。しかし俺は待つ。
都合のいい言葉が聞きたいわけじゃない。中途半端でもいいから本当の事が聞きたいと思ったからだ。
「……分かった」
小さい声だ。
「言うから。その代わり何聞いても怒らないで。絶対に約束」
何かを恐れるような真剣な表情に、またいつかと同じ恐怖が襲ってきた。
何を聞いても怒るなという事は、怒るかもしれないような事があったということか。
怒らないという約束に、今は頷く。
最悪の事態……俺は、強く目を閉じた。
「実はさ、重森が……」
スコン、と何かが外れたように感じて、俺は目を開けた。
「重森?」
当然、予想した名前ではなかった。
「うん。何かあいつ、妙に勘違いしてさ。時々ここに来て、変な事言ったり……やったり」
右川は口ごもる。「あいつ、急に調子付いてきて」
そんでさ。
いつかもね。
さっきもね。
右川が語るその、そこから先は文字通り、予想だにしない事実の連続であった。
「文化祭で、あんたを立ち入り禁止にした辺りから、なんだよね。もうやたらとさ」
黙って聞いていた俺だが、我慢できずに机をドン!と叩く。
「どう見ても、そこを狙ってんだろっ!」
右川に怒ってもしょうがないとは言え、俺の知らない所で、そんな事。
それでさっきはあんなに上機嫌か。
このところのストレスも相まってか、急激にこっちの感情が高ぶる。
さっき言われたばかりだという、「もう最悪!」らしい言葉を、右川は頭を抱えながら、側にあった紙にコッソリと書いて寄越した。
それを見た時には、怒りを通り越して、足元から崩れそうになる。
「何でそんな事……もっと早くに言えよ」
「別にケガした訳でもないし。言葉だけだったから。キモいだけで」
ボソボソ言いながら、右川は紙をビリビリと破く。
「言葉だけでも、充分悪意だろ!」
「だーかーらー、そうやってあんたが怒ると思って」
「当たり前だ!」
「だーかーらー、また重森をぶっ飛ばしたりしたら、特に今の時期はヤバいでしょ」
一応心配してくれたと言うなら……と少しだけ冷静を取り戻すけど。
それで、腑に落ちた。
「だから、いつもドアの鍵を閉めるのか」
「そだね」
「じゃ何で窓は開いてんの」
「そだね」
「じゃなくて、ちゃんと理由を」
「それはいつかみたいに、あんたが……またいつ入ってきてもいいように」
呆れ果てた。
「そんな安易で中途半端な……」
何て言えばいいんだ。喜んでいいんだか、何だか分かりゃしない。
こいつの思考回路は全く読めないと改めて思った。
「重森が窓から入ってきたら、どうするつもりだったの」
「上から叩いてやれと思って」と、ドヤ顔。窓際の踏み台を指差した。
そのための?
恐らく、右川がこれに乗っても、到底重森には届かない。
ため息も出る。
「重森だって一応男子なんだから、こんな窓、本気出したら一瞬で飛び越すぐらい簡単だぞ」
「だーかーらー、以後気をつけるって」と面倒くさそうに、嫌々言ってくれるけど。
何に気を付けるというのか、全く人の気も知らないで。
それでも、「さっきの約束。忘れないでよ」と今日一番、右川は真剣な顔になる。
「わかった」
一応、返事。
「今度から独りでいる時は窓も閉めろ」とクギを刺す事も忘れない。
「はいはい、ちゃんと、ね♪」と憎憎しい右川に戻った。
立ち直りは早いな。
「重森なんかは、どうでもいいんだけどさ」
「ど、どうでもよくないっ!ゾッとしたよ。やだやだ、もうやだっ!」
増々、右川の顔色が悪くなった。
相当嫌な思いだったろうと推察はする。確かにちょっと、悪趣味だ。
久しぶりに会って色々と驚いたが、今日は別の事もちゃんと聞く覚悟がある。
やっと、本題だ。
「おまえ、森畑と会ってるよな」
わずかだが、右川に考える間があった。
「会ったけど」
「いつかのスタバを言ってるんじゃなくて」
「うん」
普通に返ってきたようにも見えて、これだけでは分からない。
「会っただけ?重森と同じで、何か言葉があったとか」
責めていると聞こえないよう穏やかに言ったつもり。
右川はまた考え始めた。長かった。
さっきの重森より長く感じた。気のせいかもしれない。
やがて、いつになくキリッとした表情で、
「確かに、2~3回マックで会った。話もした。オゴってもらった。あの森畑ってヤツの色ボケ勘違いも、何となく分かってる」
そこまで言うか。
正直すぎる。そして正確だ。おそらくその通り。
思った通りの右川だった。正直な言葉に安心している。
だがすぐに、森畑の落ち込んだ顔が頭に浮かんできた。
昨日からずっと離れなかった、あの顔だ。
俺は、色々と思いを巡らせた。どれほどの時間、黙っていただろう。
「あいつって、そんなにオトモダチなんだ」
右川は制服の埃を払う。
俺と森畑の関係を根底から疑って、まるで汚いモノを追い払うような態度である。
「森畑は、いい加減に見えるかもしれないけど、意外と真面目で」
右川は、最後まで言わせなかった。
「だから何。ちょっとぐらい優しくしてやれとか言ったりするの。あんたマジか」
「そんな事言わないけど。大丈夫かなって、ちょっと心配で」
「ね、あたしもあんたも、そんなヤツの心配なんかしてる場合?あたしなんて来週から試験が立て続けだよ。その森畑だってそうでしょ」
「だから色々、影響しなきゃいいと思って」
「そんなヤワな奴かな。友達の彼女に妙なちょっかい出すような男だよ。チャラ男じゃん」
「ちょっかい?」
「働くぞ♪働くぞ♪」
「誤魔化すな」
妙なちょっかい。
右川は、やべぇー……と舌打ち。
「あたし、そのオトモダチに、いきなりチューとかされちゃったんですけど」
愕然とした。
「さっき、そんな事一言だって言わなかったじゃないか!」
右川にも、森畑にも、ぶつけたくなった。
言ってくれれば安心……いや、やっぱり聞きたくなかったかも。
頭の中でグルグルと回る。
「何であたしが怒られなきゃいけないの!?悪いのはあっちじゃん。いきなりだよ?無理矢理だよ?キモいだけ。さっきの重森と同じだよ」
「重森なんかと一緒にすんな!」
思わずドン!と机を叩く。つい大声が出た。
いきなりキス……それは、いつかの俺とどこが違うのか。
急に立ち上がったかと思ったら、ドアを乱暴に扱って、右川は部屋を出て行った。
去り際の台詞が、ずっと頭を回る。
〝あんた、本っ当、優しいね〟
何だかエラく御機嫌で、口先で鼻歌なんか歌っている。おそらくクラシックの何か。何の曲だか分からないが、どこかで聞き覚えはあった。
重森と1度、目が合った。ただ、それだけ。
何をされた訳でもないので争う必要もないと、そのまま俺は生徒会室に向かう。
行けば……ドアにまた鍵が。
今更?と不思議だった。後で、これも聞いてみよう。
ドアを叩いて「俺だよ」と伝えると、バタバタと慌てるように右川がドアを開けた。ちょっと不安そうな顔を覗かせた後、俺を見てすぐに笑顔が弾ける。
会えない日が続いた。
ドアを閉める事も忘れて、すぐに右川を抱き締める。
会えて嬉しい。だがそれ以上に、ただ俺は淋しかったんだ、と知る。
そんな俺の切ない感情を他所に、腕の中、いつものように右川は嬉しそうに笑うのだ。変わりは無かった。そう思いたかっただけかもしれない。
ただ、今日はキスが長かった気がした。それも気のせいかもしれない。
話したい事、知りたい事は山ほどあった。
「おまえ大学どうなった?」
右川は「さっそく来週あたりから本番始まるよ」と嘆いて、「みんな、ハルミの言いなりだよっ」とキレた。思わず吹き出したら、「笑う所じゃ無ぇワ!」とブチギレ。
「のぞみちゃんも親も言いなり。自動的に内申書と弁当と交通費が出てきて、逃げらんない」
「いいじゃん。それ羨ましいよ」
俺は、やっぱり笑った。
右川が、はあーとため息をつくので、
「そんなにイヤなら止めりゃいいんじゃないの。いつもの。お得意の」
「嫌でも止めらんない事情があんのっ」
「浅野先生に、弱みでも握られてんのか」と半分笑いながら聞いた。
誰かじゃあるまいし。
ところが右川は「うっ」と呻いた。それじゃまるで……。
「本当に握られてんのか」
「まあそれに近い」
「どんな?」
「そんなヌケヌケと弱みを言うわけな」
そこで、右川は大きなくしゃみをした。
防御本能が働いて、俺は思わず避ける。
「今頃、風邪引いてんのかよ」
「ハルミのお陰で、バカじゃなくなった」
自分で言うなよ、だった。
「気をつけろよ。これから本番なんだから」と、俺は労りの言葉をかけたつもりだったのに、「自分に伝染すんじゃねーって、あんた最低だね。彼氏のくせに」と憎憎しい事を言うので、真面目な心配はそこで終わった。
どうしていつも悪意に、そっちに取るかな。
選挙の話、他の女子が受ける大学の話、藤谷の一発、話題は尽きない。
どう見ても、いつもの右川だった。あえて言えば、何となく顔色が悪い気がした。勉強のせいと、思えば思える。
それはそうと、肝心の聞きたい事が右川から出てくる気配が無い。
なので、こっちから思い切って切り出した。
「おまえさ、最近、何かあった?」
右川は、「え!?」と飛び上がって驚く。
打って変わって激しくうろたえた。
まさか……こんな展開は予想していなかった。
微かに引けるその腕を掴んで、「何だよ。隠すなよ」と、その先を促すと、迫力に押されてなのか、右川は真顔で考え込んだ。
また始まった。
肝心な時、右川は永い永い長考モードに突入する。
今度もかなり手こずりそうだ。しかし俺は待つ。
都合のいい言葉が聞きたいわけじゃない。中途半端でもいいから本当の事が聞きたいと思ったからだ。
「……分かった」
小さい声だ。
「言うから。その代わり何聞いても怒らないで。絶対に約束」
何かを恐れるような真剣な表情に、またいつかと同じ恐怖が襲ってきた。
何を聞いても怒るなという事は、怒るかもしれないような事があったということか。
怒らないという約束に、今は頷く。
最悪の事態……俺は、強く目を閉じた。
「実はさ、重森が……」
スコン、と何かが外れたように感じて、俺は目を開けた。
「重森?」
当然、予想した名前ではなかった。
「うん。何かあいつ、妙に勘違いしてさ。時々ここに来て、変な事言ったり……やったり」
右川は口ごもる。「あいつ、急に調子付いてきて」
そんでさ。
いつかもね。
さっきもね。
右川が語るその、そこから先は文字通り、予想だにしない事実の連続であった。
「文化祭で、あんたを立ち入り禁止にした辺りから、なんだよね。もうやたらとさ」
黙って聞いていた俺だが、我慢できずに机をドン!と叩く。
「どう見ても、そこを狙ってんだろっ!」
右川に怒ってもしょうがないとは言え、俺の知らない所で、そんな事。
それでさっきはあんなに上機嫌か。
このところのストレスも相まってか、急激にこっちの感情が高ぶる。
さっき言われたばかりだという、「もう最悪!」らしい言葉を、右川は頭を抱えながら、側にあった紙にコッソリと書いて寄越した。
それを見た時には、怒りを通り越して、足元から崩れそうになる。
「何でそんな事……もっと早くに言えよ」
「別にケガした訳でもないし。言葉だけだったから。キモいだけで」
ボソボソ言いながら、右川は紙をビリビリと破く。
「言葉だけでも、充分悪意だろ!」
「だーかーらー、そうやってあんたが怒ると思って」
「当たり前だ!」
「だーかーらー、また重森をぶっ飛ばしたりしたら、特に今の時期はヤバいでしょ」
一応心配してくれたと言うなら……と少しだけ冷静を取り戻すけど。
それで、腑に落ちた。
「だから、いつもドアの鍵を閉めるのか」
「そだね」
「じゃ何で窓は開いてんの」
「そだね」
「じゃなくて、ちゃんと理由を」
「それはいつかみたいに、あんたが……またいつ入ってきてもいいように」
呆れ果てた。
「そんな安易で中途半端な……」
何て言えばいいんだ。喜んでいいんだか、何だか分かりゃしない。
こいつの思考回路は全く読めないと改めて思った。
「重森が窓から入ってきたら、どうするつもりだったの」
「上から叩いてやれと思って」と、ドヤ顔。窓際の踏み台を指差した。
そのための?
恐らく、右川がこれに乗っても、到底重森には届かない。
ため息も出る。
「重森だって一応男子なんだから、こんな窓、本気出したら一瞬で飛び越すぐらい簡単だぞ」
「だーかーらー、以後気をつけるって」と面倒くさそうに、嫌々言ってくれるけど。
何に気を付けるというのか、全く人の気も知らないで。
それでも、「さっきの約束。忘れないでよ」と今日一番、右川は真剣な顔になる。
「わかった」
一応、返事。
「今度から独りでいる時は窓も閉めろ」とクギを刺す事も忘れない。
「はいはい、ちゃんと、ね♪」と憎憎しい右川に戻った。
立ち直りは早いな。
「重森なんかは、どうでもいいんだけどさ」
「ど、どうでもよくないっ!ゾッとしたよ。やだやだ、もうやだっ!」
増々、右川の顔色が悪くなった。
相当嫌な思いだったろうと推察はする。確かにちょっと、悪趣味だ。
久しぶりに会って色々と驚いたが、今日は別の事もちゃんと聞く覚悟がある。
やっと、本題だ。
「おまえ、森畑と会ってるよな」
わずかだが、右川に考える間があった。
「会ったけど」
「いつかのスタバを言ってるんじゃなくて」
「うん」
普通に返ってきたようにも見えて、これだけでは分からない。
「会っただけ?重森と同じで、何か言葉があったとか」
責めていると聞こえないよう穏やかに言ったつもり。
右川はまた考え始めた。長かった。
さっきの重森より長く感じた。気のせいかもしれない。
やがて、いつになくキリッとした表情で、
「確かに、2~3回マックで会った。話もした。オゴってもらった。あの森畑ってヤツの色ボケ勘違いも、何となく分かってる」
そこまで言うか。
正直すぎる。そして正確だ。おそらくその通り。
思った通りの右川だった。正直な言葉に安心している。
だがすぐに、森畑の落ち込んだ顔が頭に浮かんできた。
昨日からずっと離れなかった、あの顔だ。
俺は、色々と思いを巡らせた。どれほどの時間、黙っていただろう。
「あいつって、そんなにオトモダチなんだ」
右川は制服の埃を払う。
俺と森畑の関係を根底から疑って、まるで汚いモノを追い払うような態度である。
「森畑は、いい加減に見えるかもしれないけど、意外と真面目で」
右川は、最後まで言わせなかった。
「だから何。ちょっとぐらい優しくしてやれとか言ったりするの。あんたマジか」
「そんな事言わないけど。大丈夫かなって、ちょっと心配で」
「ね、あたしもあんたも、そんなヤツの心配なんかしてる場合?あたしなんて来週から試験が立て続けだよ。その森畑だってそうでしょ」
「だから色々、影響しなきゃいいと思って」
「そんなヤワな奴かな。友達の彼女に妙なちょっかい出すような男だよ。チャラ男じゃん」
「ちょっかい?」
「働くぞ♪働くぞ♪」
「誤魔化すな」
妙なちょっかい。
右川は、やべぇー……と舌打ち。
「あたし、そのオトモダチに、いきなりチューとかされちゃったんですけど」
愕然とした。
「さっき、そんな事一言だって言わなかったじゃないか!」
右川にも、森畑にも、ぶつけたくなった。
言ってくれれば安心……いや、やっぱり聞きたくなかったかも。
頭の中でグルグルと回る。
「何であたしが怒られなきゃいけないの!?悪いのはあっちじゃん。いきなりだよ?無理矢理だよ?キモいだけ。さっきの重森と同じだよ」
「重森なんかと一緒にすんな!」
思わずドン!と机を叩く。つい大声が出た。
いきなりキス……それは、いつかの俺とどこが違うのか。
急に立ち上がったかと思ったら、ドアを乱暴に扱って、右川は部屋を出て行った。
去り際の台詞が、ずっと頭を回る。
〝あんた、本っ当、優しいね〟