God bless you!~第14話「森畑くん、と」
センター試験
森畑は、滑り止めの医学部試験を受けなかった。
それを、森畑本人ではなく、古屋先生から聞いた。
「彼自身が経済志望だからね。また親とモメたかな。何か聞いてる?」
「いえ」と答える。驚きながらも平然を装った。
ちょっと迷ってメールを考えて、『どんなに遅くてもいいから返事くれよ。みんな心配してるから』
まるで右川に送るメールのようだと思った。
動揺して試験を受けられなかった……あの森畑に限って有り得ないと、考えようとした。考えすぎかもしれない。
親の言いなりになりたくないと聞いていたから、それに違いない。
どうしても、そう思いたかった。
1月19日。センター試験1日目。
1月20日。センター試験2日目。
2日間、会場で森畑を見掛けなかった。どこかには居るはずだ。俺が席を知らないだけ。そんな事を考えている場合じゃないと、頭からそれを追い払い、必死で試験に集中しようとする自分がいる。
〝キスした〟
まさかそこまで。
試験問題、文字面を追いながらも、その事ばっかり考えた。
これが自動的にやってくる。
センター試験だから、ちゃんと来たけれど、もしこれがたくさん受ける大学の中の1つだとして、途端にどうなってたか。
森畑は動揺したまま、俺以上に深刻に捉えて、試験を受ける気になれなかったんじゃないかと思えた。
2日間のセンター試験が終わって、今日は1度塾に顔を出す。
当然、森畑とも会った。
どことなく、気まずい雰囲気が流れて、思い切って医学部試験の話あたり、聞こうとしたら、
「受かっても行く気無ぇから、最初から受けるの止めた」
こっちが聞く前に伝えてきた。「親にスゲー怒られて」と笑う。
本当にそれだけか。
前日までそんな事、一言だって言ってなかった。
お互いに同じ事を考えていて、それでも言いだせないでいる。
それを察してか、やっぱり森畑の方から、「あれの事は関係ないぞ」
その声には少々怒りが仄見えた。息苦しさが迫る。
そんな息苦しさの中でも、やっぱり口を割るのは森畑だった。
「あれはさ、具体的に何か言ったとか、ガチで決めたとかじゃないから」
安心しろ……と、ここでも言いにくい事を自分から言える余裕を感じる。
妬ましいくらい大人だ、と思った。
「いや、俺だって、具体的に俺の事どう思ってるか1度も聞いたことないから」
だから安心しろ……そんな馬鹿な話、ある訳ない。
自分で自分が何を言っているのか、分からなくなってる。
俺には大人の余裕は無い。うっかり出たその言葉は森畑を逆撫でしたような気がして怯えていたが、だがそれは違った。
「それでもあいつ、おまえに一途だから。それだけでいいじゃん」
森畑はそこで初めて、俺の目を見た。
「オレの事、あいつと話した?」
「うん」
何を話したのか。それが、自分から言い出せない。
どこかで森畑の追求を待っている。
自分が、思いのほか森畑を脅威に感じている事に、気づかれていないだろうか。右川がいつか森畑を気に入るかもしれない。
それを怖れている自分が確かにあった。
右川の気持ちは今、俺にあるんだからという優越感、それだけの事に気を良くしている幼稚な自分が嫌になる。淡々と切り出した森畑と比べたら、そんな優越感すら、森畑の余裕には全然及ばないと卑屈になる。
「ま、あれは消えても、オレにはまだヤラせてくれる彼女がいるからな」
森畑は、空元気とも取れる言い訳を繕って見せた。
それは、無意味だ。俺が経験的に知っている。
あの頃、自分にだって他に彼女が居た。それでも勝手に気持ちが動きだして、思わずキスしてしまうほど……いつの間にか深みにハマっている。
声を掛けたとかナンパしたとか、そんな事ならここまで動揺しなかった。
そのキスは……いつかの自分と同じだ。
一瞬でも周りを忘れて、溢れる思いに抵抗できなかった。
古屋先生が入ってきた。
いつものように、森畑は背中を向ける。
いつもより、少し急いで。
それを、森畑本人ではなく、古屋先生から聞いた。
「彼自身が経済志望だからね。また親とモメたかな。何か聞いてる?」
「いえ」と答える。驚きながらも平然を装った。
ちょっと迷ってメールを考えて、『どんなに遅くてもいいから返事くれよ。みんな心配してるから』
まるで右川に送るメールのようだと思った。
動揺して試験を受けられなかった……あの森畑に限って有り得ないと、考えようとした。考えすぎかもしれない。
親の言いなりになりたくないと聞いていたから、それに違いない。
どうしても、そう思いたかった。
1月19日。センター試験1日目。
1月20日。センター試験2日目。
2日間、会場で森畑を見掛けなかった。どこかには居るはずだ。俺が席を知らないだけ。そんな事を考えている場合じゃないと、頭からそれを追い払い、必死で試験に集中しようとする自分がいる。
〝キスした〟
まさかそこまで。
試験問題、文字面を追いながらも、その事ばっかり考えた。
これが自動的にやってくる。
センター試験だから、ちゃんと来たけれど、もしこれがたくさん受ける大学の中の1つだとして、途端にどうなってたか。
森畑は動揺したまま、俺以上に深刻に捉えて、試験を受ける気になれなかったんじゃないかと思えた。
2日間のセンター試験が終わって、今日は1度塾に顔を出す。
当然、森畑とも会った。
どことなく、気まずい雰囲気が流れて、思い切って医学部試験の話あたり、聞こうとしたら、
「受かっても行く気無ぇから、最初から受けるの止めた」
こっちが聞く前に伝えてきた。「親にスゲー怒られて」と笑う。
本当にそれだけか。
前日までそんな事、一言だって言ってなかった。
お互いに同じ事を考えていて、それでも言いだせないでいる。
それを察してか、やっぱり森畑の方から、「あれの事は関係ないぞ」
その声には少々怒りが仄見えた。息苦しさが迫る。
そんな息苦しさの中でも、やっぱり口を割るのは森畑だった。
「あれはさ、具体的に何か言ったとか、ガチで決めたとかじゃないから」
安心しろ……と、ここでも言いにくい事を自分から言える余裕を感じる。
妬ましいくらい大人だ、と思った。
「いや、俺だって、具体的に俺の事どう思ってるか1度も聞いたことないから」
だから安心しろ……そんな馬鹿な話、ある訳ない。
自分で自分が何を言っているのか、分からなくなってる。
俺には大人の余裕は無い。うっかり出たその言葉は森畑を逆撫でしたような気がして怯えていたが、だがそれは違った。
「それでもあいつ、おまえに一途だから。それだけでいいじゃん」
森畑はそこで初めて、俺の目を見た。
「オレの事、あいつと話した?」
「うん」
何を話したのか。それが、自分から言い出せない。
どこかで森畑の追求を待っている。
自分が、思いのほか森畑を脅威に感じている事に、気づかれていないだろうか。右川がいつか森畑を気に入るかもしれない。
それを怖れている自分が確かにあった。
右川の気持ちは今、俺にあるんだからという優越感、それだけの事に気を良くしている幼稚な自分が嫌になる。淡々と切り出した森畑と比べたら、そんな優越感すら、森畑の余裕には全然及ばないと卑屈になる。
「ま、あれは消えても、オレにはまだヤラせてくれる彼女がいるからな」
森畑は、空元気とも取れる言い訳を繕って見せた。
それは、無意味だ。俺が経験的に知っている。
あの頃、自分にだって他に彼女が居た。それでも勝手に気持ちが動きだして、思わずキスしてしまうほど……いつの間にか深みにハマっている。
声を掛けたとかナンパしたとか、そんな事ならここまで動揺しなかった。
そのキスは……いつかの自分と同じだ。
一瞬でも周りを忘れて、溢れる思いに抵抗できなかった。
古屋先生が入ってきた。
いつものように、森畑は背中を向ける。
いつもより、少し急いで。