Ｇod bless you！～第１４話「森畑くん、と」
★★★右川カズミですが……何であたしが悪者？
マックは避けて。
今日は、コンビニのカフェ・コーナーに来た。
ところが、どういうわけか付属野郎が居る。
お互い固まってしまった。向こうも、「まさか」の顔だ。
お互い避けて……出会ってしまったというワケか。
ケンタッキーにしとけばよかった。チキンでもよかったのに。
今更、遅い。逃げようか。あ、もう注文してしまった。
受け取ってから、ちゃんと、逃げようと決めた。
森畑にワザと背中を向けて、コーヒーを待つ。
店員さんに「コーヒーです」と渡された。掴んで速攻、逃げ出したら、何だか妙に手が冷たくて……あれ？あたし確かホットだな、と気づいて止まった。「それ、オレだよ」と森畑が後ろから来た。
あたしの分、暖かいのと交換です。ハイ。
逃げも、ゴマかしも利かない。最高に気まずい。
「オレの事、あいつと話したんだって？」
直球だった。
森畑に促されて、外の景色の見えるカウンター席に２人で座る。
誰が見ても、まるで他人に見えるように、２人分の席を間に置いて、離れて座った。
「あんたって冬でもアイスなの」
「これで男のカラダが目覚める」
生々しい。普通に言えないのかよ。
森畑と、お互いにお互いの顔を見ないまま、口先だけの会話が始まる。
「いー天気だな」「そだね」「どっか行きてーな」「そだね」
年寄りかよっ！
４５の沢村でも、こんな会話しない。相当ツマんない。
OL彼女あるあるを、もっと聞きたい所だが、そこまでこっちの気分が盛り上がって来ない。
そう言えば、本題はどうなったのか。
チラッと横眼で様子を窺うと、こう見えて、こいつも頑張っているのか、目の下にはクマだった。
「正直、おまえとオレ、どうなの」
無ぇーワ！
だがしかし、キッパリ言ってやろうかと思うとはまた別の領域で、沢村がコイツを心配だと言った言葉の数々を思い出して……考えているけど、言葉が上手く、まとまらない。
「悪いけど、受験でそれどころじゃないよ」
結果、口を突いて出たのは、有効率１００パーセントの言い訳だった。
いつの間にか、森畑は隣の席まで迫ってきた。
ストローで、あたしの頬を、つん、と突いてくる。
コーヒー一滴が頬を伝って落ちた。何すんのよ、とも何も、あたしは言わなかった。手で無造作に拭っただけ。
沢村は、こいつをオトモダチと認めたけど、その本人は沢村を出し抜いてあたしに近づこうとしている。
沢村の思いやりの上に胡坐をかいているのだ。
つまりその程度の友達って事。
「じゃ受験が終わったら、オレと付き合えよ」
はい、サイテー。
最初から真面目に答える必要も無いのだ。
「そだね」と適当に流す。重森と同じ適当な扱いでいいって事で。
「も１回、するぞ」
「そだね」
マジで向かって来たら、今度という今度は熱いコーヒーをブッ掛ける。
勘違いの天狗野郎。これでマジ、あんたは目が醒めるだろうね。
そこで突然、森畑は立ち上がった。
あたしは思わずカップを掴む。
ところが、
「おまえバカか！適当な事ばっか言いやがって。そんな態度、沢村が不愉快に決まってんだろ！」
突然の、激怒だった。
テーブルを、どん！と叩いて、真上からこっちを睨め付けてくる。
何であたしが悪者？
納得いかないと、こっちも立ち上がった。
「不愉快なの、あんたでしょ！チューなんかすんな！あんたのせいで、あたしも沢村も、ムダに体力使ったじゃんか！」
森畑は、そこで急に勢いを無くした。
「沢村に……まさか、キスした事まで言ったのか」
「言った」
「そこまで言う必要あんのかっ！」
「どうでもいいのは隠さないんだよっ！」
「そんな態度だから、あいつが自信無くして落ち込むんじゃないのか！」
さっきの誘惑モードから一転、これまでとは想像もつかない真剣な顔だ。といって、その激怒は本当に怒っているのか。
それともあたしを最低の女扱いして、吹っ切るための前振りなのか。
沢村が落ち込んでいると、これは……信じていいのか。重森のホラ吹きとは違うって事で。
森畑のスマホが鳴り出した。
着信音、この曲何だっけ？と思い出そうとする間もなく、こと切れる。
森畑は、相手を確かめる事もしなかった。
彼女だったら、どうすんだ。そういうとこが、いい加減。
ヒトを傷付けといて、自分は大盛りパフェ食べるタイプだな。
冷静になって辺りを見回すと、コンビニの店員はモロ唖然としているし、チラホラ居たお客も、どこかザワついてくる。周りの視線を強く感じて、「ちょっと出ろ」と、森畑はあたしの腕を引っ張った。
コンビニを出て、出来るだけ人通りの少ない道を選んだつもり。
あたしは、森畑とは十二分に距離を取って、その後ろを歩いた。
「あいつの本命、来週だぞ。どうすんだよ」
「平気でしょ。こんな、くっだらない事が試験に影響するとは」
「バーカ。その、くっだらない事のおかげで、オレ様は滑り止めを１つ、やり過ごしたゼ」
あたしは苦虫を噛み潰した。
「沢村が落ち込んだら、あたしのせいじゃない。あんたがやり過ごしたりなんかするからだ」
「オレの事なんかどーでもいいだろ！」
「そうだよ、あんたなんかどーでもいいよ！落ちて潰れてぐちゃぐちゃになれって思ってるよ、あたしはね！」
呆れてモノが言えない。
森畑は、やり過ごした自分の事より、沢村の試験を心配している。
沢村は沢村で、森畑の試験に影響するとかしないとか、だから心配だとか抜かす。彼女のあたしを差し置いて、男同士で勝手に愛し合ってるとしか思えない。どうにかしないと恋人にはなれないし、もう友達にも戻れない……とかなんとか。
お互いに庇い合い、思い合い、それでいて両側から怒られるのはあたしなのだ。損が過ぎるよ。
あー、大盛りパフェ食いたい。
ふと。
愛し合う２人の間で、今後一切、あたしの話題は無くなるな……そんな事を思った。
例えこれが吹っ切れたとしても、口に出せない暗黙の秘密になる。
あたしが沢村と続く限り、そんなオブラートに包んだような２人の友達関係が、もしかしたら、大学に行っても続くのかも。
沢村は、それでいいとは全然思っていない気がした。
だから、言葉が決まらなかったんだと思う。
友達より彼女を優先したと言えばカッコはつくかもしれないけど、またしても遠回り、しんどい方を選んでしまった。
選ばなかったとはいえ、森畑に対する思いは消えないだろう。
こいつを大事に思う沢村の意思は、ちゃんと、ある。
森畑にも……あるんじゃないか。
こうなったら３Ｐか。
森畑は、無言に疲れたのか、こっちの言葉を待ちくたびれたのか、スマホを取り出して眺める。
かと思ったら、
「ちょ、もう帰る」
突然、慌て始めた。彼女メールかな？と思った。
「え、ちょっと」
小走りで歩きだす森畑を追いかける。
「話、途中じゃなかった？」
「なんだよ、ダンマリ決めやがって。もういいだろ」
とか言われたら、そうなの？もういいの？したらば、あたしは止まる。
いい天気♪どこ行こうかな♪あ、塾だ……。
そんな中途半端を無視しきれず、森畑はイライラと立ち止まった。
「なんだよ、急いでんだよ。早く言えよ」
特にこっちは言う事無ぇーワ。
だけどそんならせっかくだからと、ここで最後の一発、この険悪な雰囲気をフッ飛ばせとばかりに、崖っぷち、いつものようにヘラヘラかまそう♪
あたしは両手を頭の上。そこで手のひらをぱっと広げてウサギになる。
「あのさ、受験終わったら、どっか行かない？」
森畑は口元を半開き、まるで意識が途切れたみたいに固まった。
３秒。
さらに、５秒。
まだまだ打ち溶けてこない。森畑はそれほど冷たく、凍りついている。
次の瞬間、それが一気に、崩壊した。
「てめぇ一体どういう女だよ！？」
文字通り、ブチ切れ。
「適当にブッ込んでんじゃねーよ！男ナメてんのかっ！」
ヤンキー臭がぷんぷんの、大激怒だった。
あたしはウサ耳を閉じた。両肩、腕ともに、ガクンと堕ちる。
こいつも沢村も、基本は同じか。肝心な時にノリが悪い。
こんな最悪で終わらせていい事なんか、１つも無いのに。
沢村と違うと言えるのは、森畑はモノを投げては来なかった。
ホニャララと一緒にすんな！とブッ込んで来ない。ヤンキー祭りをやらかして、ひと通り叫んだその後、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。
「これ以上、あいつをムゲにすんな」
森畑は、すっかり鳴り切れたスマホを開いた。メール画面に「こっちは、譲りすぎ」と謎の呟きをカマして眉間にしわを寄せる。
程なくして、
「ったく、沢村のヤツ、こんなフザけた女に捕まりやがって」と、きた。
「つーか、それ。あんたもじゃん」
「ちょっと遊んでやった位で、オレがハマったみたいに言ってんじゃねーよ、くそチビが」
言い方っ！
こうなってくると、森畑のあたしに対する邪な気持ちの１部、それすらも見えない。
それは、無意識の深い友情に気づいたとも見て取れるし、オレ様の愛する沢村の彼女なんかに、寄りにも寄ってそんなのにちょっかいを出してしまった……そんな森畑自身の後悔なのか。痛恨の一撃か。
森畑は次第に落ち着きを取り戻していった。
腕組みをして、仁王立ちになる。
この期に及んで、やけに挑戦的だ。
「そうだな。おまえの言う通りかもしれない。受験終わったら、どっか行くか」
およ。
意外とノリが好い。さすが付属♪と思ったら、それは大きな間違い。
「合コン三昧。沢村には、オレがいい女宛がってやる。おまえなんかその辺で落ちて潰れてろ」
メンチ切って抜かしやがった。付属のくせに、ヤンキー臭が強過ぎる。
愛情が裏返し。可愛さ余って憎さ１００倍。とうとう敵に回ったか。
この手の男子はこんなのばっかり。
森畑は背中を向けて歩き出す。
いちかバチか。
乗るか反るか。
「ちょっと待ったー！！」
振り返った森畑の、その顔は、どこか複雑に歪んで見えて、２秒だけ……こっちは言葉を失う。
付属のくせに、こんな大事な場面で泣くな。
そんなの、あたしが絶対に許さない。
「その合コン、あたしも行く！」
３P。
フザけんな。そんなの、まっぴらご免。
森畑に限って言えば、１つだけ、どうしても外せない事がある。
最後にこれだけは言う。
「そん時は、あんたの彼女を連れてきて！」
今日は、コンビニのカフェ・コーナーに来た。
ところが、どういうわけか付属野郎が居る。
お互い固まってしまった。向こうも、「まさか」の顔だ。
お互い避けて……出会ってしまったというワケか。
ケンタッキーにしとけばよかった。チキンでもよかったのに。
今更、遅い。逃げようか。あ、もう注文してしまった。
受け取ってから、ちゃんと、逃げようと決めた。
森畑にワザと背中を向けて、コーヒーを待つ。
店員さんに「コーヒーです」と渡された。掴んで速攻、逃げ出したら、何だか妙に手が冷たくて……あれ？あたし確かホットだな、と気づいて止まった。「それ、オレだよ」と森畑が後ろから来た。
あたしの分、暖かいのと交換です。ハイ。
逃げも、ゴマかしも利かない。最高に気まずい。
「オレの事、あいつと話したんだって？」
直球だった。
森畑に促されて、外の景色の見えるカウンター席に２人で座る。
誰が見ても、まるで他人に見えるように、２人分の席を間に置いて、離れて座った。
「あんたって冬でもアイスなの」
「これで男のカラダが目覚める」
生々しい。普通に言えないのかよ。
森畑と、お互いにお互いの顔を見ないまま、口先だけの会話が始まる。
「いー天気だな」「そだね」「どっか行きてーな」「そだね」
年寄りかよっ！
４５の沢村でも、こんな会話しない。相当ツマんない。
OL彼女あるあるを、もっと聞きたい所だが、そこまでこっちの気分が盛り上がって来ない。
そう言えば、本題はどうなったのか。
チラッと横眼で様子を窺うと、こう見えて、こいつも頑張っているのか、目の下にはクマだった。
「正直、おまえとオレ、どうなの」
無ぇーワ！
だがしかし、キッパリ言ってやろうかと思うとはまた別の領域で、沢村がコイツを心配だと言った言葉の数々を思い出して……考えているけど、言葉が上手く、まとまらない。
「悪いけど、受験でそれどころじゃないよ」
結果、口を突いて出たのは、有効率１００パーセントの言い訳だった。
いつの間にか、森畑は隣の席まで迫ってきた。
ストローで、あたしの頬を、つん、と突いてくる。
コーヒー一滴が頬を伝って落ちた。何すんのよ、とも何も、あたしは言わなかった。手で無造作に拭っただけ。
沢村は、こいつをオトモダチと認めたけど、その本人は沢村を出し抜いてあたしに近づこうとしている。
沢村の思いやりの上に胡坐をかいているのだ。
つまりその程度の友達って事。
「じゃ受験が終わったら、オレと付き合えよ」
はい、サイテー。
最初から真面目に答える必要も無いのだ。
「そだね」と適当に流す。重森と同じ適当な扱いでいいって事で。
「も１回、するぞ」
「そだね」
マジで向かって来たら、今度という今度は熱いコーヒーをブッ掛ける。
勘違いの天狗野郎。これでマジ、あんたは目が醒めるだろうね。
そこで突然、森畑は立ち上がった。
あたしは思わずカップを掴む。
ところが、
「おまえバカか！適当な事ばっか言いやがって。そんな態度、沢村が不愉快に決まってんだろ！」
突然の、激怒だった。
テーブルを、どん！と叩いて、真上からこっちを睨め付けてくる。
何であたしが悪者？
納得いかないと、こっちも立ち上がった。
「不愉快なの、あんたでしょ！チューなんかすんな！あんたのせいで、あたしも沢村も、ムダに体力使ったじゃんか！」
森畑は、そこで急に勢いを無くした。
「沢村に……まさか、キスした事まで言ったのか」
「言った」
「そこまで言う必要あんのかっ！」
「どうでもいいのは隠さないんだよっ！」
「そんな態度だから、あいつが自信無くして落ち込むんじゃないのか！」
さっきの誘惑モードから一転、これまでとは想像もつかない真剣な顔だ。といって、その激怒は本当に怒っているのか。
それともあたしを最低の女扱いして、吹っ切るための前振りなのか。
沢村が落ち込んでいると、これは……信じていいのか。重森のホラ吹きとは違うって事で。
森畑のスマホが鳴り出した。
着信音、この曲何だっけ？と思い出そうとする間もなく、こと切れる。
森畑は、相手を確かめる事もしなかった。
彼女だったら、どうすんだ。そういうとこが、いい加減。
ヒトを傷付けといて、自分は大盛りパフェ食べるタイプだな。
冷静になって辺りを見回すと、コンビニの店員はモロ唖然としているし、チラホラ居たお客も、どこかザワついてくる。周りの視線を強く感じて、「ちょっと出ろ」と、森畑はあたしの腕を引っ張った。
コンビニを出て、出来るだけ人通りの少ない道を選んだつもり。
あたしは、森畑とは十二分に距離を取って、その後ろを歩いた。
「あいつの本命、来週だぞ。どうすんだよ」
「平気でしょ。こんな、くっだらない事が試験に影響するとは」
「バーカ。その、くっだらない事のおかげで、オレ様は滑り止めを１つ、やり過ごしたゼ」
あたしは苦虫を噛み潰した。
「沢村が落ち込んだら、あたしのせいじゃない。あんたがやり過ごしたりなんかするからだ」
「オレの事なんかどーでもいいだろ！」
「そうだよ、あんたなんかどーでもいいよ！落ちて潰れてぐちゃぐちゃになれって思ってるよ、あたしはね！」
呆れてモノが言えない。
森畑は、やり過ごした自分の事より、沢村の試験を心配している。
沢村は沢村で、森畑の試験に影響するとかしないとか、だから心配だとか抜かす。彼女のあたしを差し置いて、男同士で勝手に愛し合ってるとしか思えない。どうにかしないと恋人にはなれないし、もう友達にも戻れない……とかなんとか。
お互いに庇い合い、思い合い、それでいて両側から怒られるのはあたしなのだ。損が過ぎるよ。
あー、大盛りパフェ食いたい。
ふと。
愛し合う２人の間で、今後一切、あたしの話題は無くなるな……そんな事を思った。
例えこれが吹っ切れたとしても、口に出せない暗黙の秘密になる。
あたしが沢村と続く限り、そんなオブラートに包んだような２人の友達関係が、もしかしたら、大学に行っても続くのかも。
沢村は、それでいいとは全然思っていない気がした。
だから、言葉が決まらなかったんだと思う。
友達より彼女を優先したと言えばカッコはつくかもしれないけど、またしても遠回り、しんどい方を選んでしまった。
選ばなかったとはいえ、森畑に対する思いは消えないだろう。
こいつを大事に思う沢村の意思は、ちゃんと、ある。
森畑にも……あるんじゃないか。
こうなったら３Ｐか。
森畑は、無言に疲れたのか、こっちの言葉を待ちくたびれたのか、スマホを取り出して眺める。
かと思ったら、
「ちょ、もう帰る」
突然、慌て始めた。彼女メールかな？と思った。
「え、ちょっと」
小走りで歩きだす森畑を追いかける。
「話、途中じゃなかった？」
「なんだよ、ダンマリ決めやがって。もういいだろ」
とか言われたら、そうなの？もういいの？したらば、あたしは止まる。
いい天気♪どこ行こうかな♪あ、塾だ……。
そんな中途半端を無視しきれず、森畑はイライラと立ち止まった。
「なんだよ、急いでんだよ。早く言えよ」
特にこっちは言う事無ぇーワ。
だけどそんならせっかくだからと、ここで最後の一発、この険悪な雰囲気をフッ飛ばせとばかりに、崖っぷち、いつものようにヘラヘラかまそう♪
あたしは両手を頭の上。そこで手のひらをぱっと広げてウサギになる。
「あのさ、受験終わったら、どっか行かない？」
森畑は口元を半開き、まるで意識が途切れたみたいに固まった。
３秒。
さらに、５秒。
まだまだ打ち溶けてこない。森畑はそれほど冷たく、凍りついている。
次の瞬間、それが一気に、崩壊した。
「てめぇ一体どういう女だよ！？」
文字通り、ブチ切れ。
「適当にブッ込んでんじゃねーよ！男ナメてんのかっ！」
ヤンキー臭がぷんぷんの、大激怒だった。
あたしはウサ耳を閉じた。両肩、腕ともに、ガクンと堕ちる。
こいつも沢村も、基本は同じか。肝心な時にノリが悪い。
こんな最悪で終わらせていい事なんか、１つも無いのに。
沢村と違うと言えるのは、森畑はモノを投げては来なかった。
ホニャララと一緒にすんな！とブッ込んで来ない。ヤンキー祭りをやらかして、ひと通り叫んだその後、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。
「これ以上、あいつをムゲにすんな」
森畑は、すっかり鳴り切れたスマホを開いた。メール画面に「こっちは、譲りすぎ」と謎の呟きをカマして眉間にしわを寄せる。
程なくして、
「ったく、沢村のヤツ、こんなフザけた女に捕まりやがって」と、きた。
「つーか、それ。あんたもじゃん」
「ちょっと遊んでやった位で、オレがハマったみたいに言ってんじゃねーよ、くそチビが」
言い方っ！
こうなってくると、森畑のあたしに対する邪な気持ちの１部、それすらも見えない。
それは、無意識の深い友情に気づいたとも見て取れるし、オレ様の愛する沢村の彼女なんかに、寄りにも寄ってそんなのにちょっかいを出してしまった……そんな森畑自身の後悔なのか。痛恨の一撃か。
森畑は次第に落ち着きを取り戻していった。
腕組みをして、仁王立ちになる。
この期に及んで、やけに挑戦的だ。
「そうだな。おまえの言う通りかもしれない。受験終わったら、どっか行くか」
およ。
意外とノリが好い。さすが付属♪と思ったら、それは大きな間違い。
「合コン三昧。沢村には、オレがいい女宛がってやる。おまえなんかその辺で落ちて潰れてろ」
メンチ切って抜かしやがった。付属のくせに、ヤンキー臭が強過ぎる。
愛情が裏返し。可愛さ余って憎さ１００倍。とうとう敵に回ったか。
この手の男子はこんなのばっかり。
森畑は背中を向けて歩き出す。
いちかバチか。
乗るか反るか。
「ちょっと待ったー！！」
振り返った森畑の、その顔は、どこか複雑に歪んで見えて、２秒だけ……こっちは言葉を失う。
付属のくせに、こんな大事な場面で泣くな。
そんなの、あたしが絶対に許さない。
「その合コン、あたしも行く！」
３P。
フザけんな。そんなの、まっぴらご免。
森畑に限って言えば、１つだけ、どうしても外せない事がある。
最後にこれだけは言う。
「そん時は、あんたの彼女を連れてきて！」
