Ｇod bless you！～第１４話「森畑くん、と」
★★★右川カズミですが……右川家・緊急家族会議
そして年明け、１月。
右川家・緊急家族会議が開催された。
「あたしはとにかく仕事がしたいの。だから夜間で全然よかったのに！何て事してくれたのっ！」
親父を前にそう叫んだ。
お母さんもいた。アキちゃんもハルミもいた。
「ハルミさんのお陰で毎日机に付いて勉強するようになったんですよ」と、お母さんはやたらハルミを持ち上げるけど、あれだけ課題を出されたら（脅されたら）、やらざるを得ないでしょ。
それに気をよくしたのか、保証人の機嫌取りか、ハルミはどこまでも親の味方だった。
「独り暮らしもしたいんでしょ？最低でも１２万はいるね。保険とか税金どうすんの。そしたら１５万はいるよ。そこに沢村くんと遊ぶお金は入ってないからね。仕事するって水商売？そんな事お父さんが許すと思う？彼の家も金持ちには見えないし。援交なんて……今時そこまでは無いと思うけど、何だっけ？パパ活？そんな怪しいお仕事がバレたら、あの優しい沢村くんとは終わりだよ」
ハルミは、1人暮らしのリスク＆女子の闇を露骨に強調。
さらに、親の前で堂々と沢村の名前を晒し、その存在を強固に打ち立てて説得してくる。
事実として……右川家において沢村は、親も兄貴もアキちゃん夫妻も公認の〝デキた彼氏〟となっていた。とうとう家までも……。
ハルミも、１回見ただけ、あのレポートだけでヤツの何がわかるというのか。よっぽどアキちゃんにスリこまれたに違いない。
では肝心の親はというと、最初から永世中立なお母さんは置いといて。
親父は、あの夏の〝振られました〟発言もあってか、沢村は〝ただ不愉快な男子〟としか写っていなかったはずだ。
「こんな大事な時期に女の子の事ばかり考えてるようじゃ、親御さんも心配だろうな。何といっても長男だから」と、何かと長男を贔屓にするという、長男言及発言が絶好調だった。
だが２学期以降、沢村が塾に行きだした辺りから、だと思う。アキちゃんが家に来て、「カズミは、沢村くんと今も仲良くやってるよ」と余計な事（？）を言ってくれたあたりから様子が変わってきた。
その後、北海道の兄貴との電話の中で「2人の事はもう知ってる。親父は出張るな。ほっとけ」と、あっさり言われ、親としてのプライドが傷つけられたらしい。
「兄貴まで知っていると言うのに、親にはどこまで隠すつもりだったのか！」
本音を言えば、とことん隠すつもりだった。
荒れ狂う親父を押さえつけて、事実を嫌々説明したんだけど、あたしが言うより、アキちゃんから言わせた方が何倍も説得力があったようで。
曰く、
カズミが大学に行く気になったのも、沢村くんのお陰。
カズミはずっと勉強を見てもらっていた。
カズミを心配して、今も、色々と世話してくれる。
「彼の性格上、いい加減な付き合いでは絶対有り得ない」
アキちゃんに太鼓判を押されて、親父はもう何も言えなくなった。
トドメに、
「彼は国立志望なんだけど、真面目に頑張ってるから、このまま行けば多分大丈夫だと思う」
そこで、親父は落ちた。堕ちてしまった。
それだけは言って欲しくなかった……。
「親御さんに色々言われてたけど、本人は国立受けるなんて感じじゃなかったのに。やっぱり最後には、親の云う事をちゃんと聞いたと言うことだろうなぁ」
「親は関係無かったよ」
事実は却下。
最後には、「なんとできた長男さんだろうな」と溜め息と共に絶賛する。どこまでも長男言及発言。
親を裏切り東大を蹴って平然としている兄貴に、今も悔しい気持ちを捨てきれないでいる。〝親の言う事を聞いて真面目に大学に通う優秀な長男〟という幻を、沢村に重ねているだけ。
親父は、「どんな子だったかな」と必死で思い出そうとしていた。
所詮、その程度だ。
夏は親父が酔っ払っていたし、その後に訪問先で素面で会ったとは言え、不愉快な男の顔なんか、すっかり忘れちゃってるに違いない。
ヒロちゃ～ん♪とか言ってたくせに。
「とにかく沢村くんだっけ？来週にでも、もう１度家に来てもらえ」と、恐ろしい事を言い出した。
「あっちも今は受験でそれどころじゃないよっ」と、刺す。
「そうだな。これからセンター試験も始まるし」と、アキちゃんが口添えして、親父は「ううむ」と唸ったまま、黙った。
助かった。受験も悪くない。言い訳には１番役に立つ。
それからの言い訳は、また考えよう。何だかんだ理由を付けて、とにかく、沢村が２度と家に来なければいい。
「センター試験か。なんとも輝かしい響きだなぁ」
親父はそこで遠い目をした。
「勉強に男女は関係ないんだから、せめてカズミは、国立長男くんに恥ずかしくない大学を目指しなさい」
親父は、決して、娘と彼氏との釣合いを心配しているのでは無い。
「彼氏もだけど、カズミはまず自分の事をちゃんとしないと」
親父の中で、沢村はあくまでも娘の踏み台だ。
思えば。
東大に受かった優秀（？）な兄貴と同じルートを強要されてきた。
兄貴と同じ塾に行け、同じ通信教育を受けろ、同じ問題集を買え。
もう、うんざり。
その兄貴が北海道に高飛びして以降、さすがの親父も大人しくなってホッとしてるのに、何でここに来て今度は彼氏と競争しなきゃなのか。
あの日。
クリスマスの次の日、ホテルで朝ごはんの最中、沢村から聞いた話に耳を疑った。
「おまえんとこからウチにさ、お歳暮っていうの？来たらしいんだけど」
まったく聞いていなかった。知らない所で何かが進行している。
「ファイル届けた事ぐらいで気遣わなくていいって。親も言ってるから」
「わかった、言っとく」
受験の世話のお返し、それは口実だ。
ちなみに何が送られて来たかを聞くと、ビールとか酒の寄せ集めだったとか。息子の偉業に当てたなら、お菓子とか食べ物でもいいはずだ。
その狙いは、彼の両親に向かっている。親御さん共々、これからも娘をよろしく！だ。間違いない。
「ご丁寧にお礼状が届いたわよ」
お母さんにハガキを見せられた。
大人の手書きで、お歳暮のお礼が書かれてある。
「とにかく、お歳暮なんて、そこまでする必要無いからね！」
これ以上、出張って来られたら困る。
家族会議の締めに、あたしは改めて親父にクギを刺した。
右川家・緊急家族会議が開催された。
「あたしはとにかく仕事がしたいの。だから夜間で全然よかったのに！何て事してくれたのっ！」
親父を前にそう叫んだ。
お母さんもいた。アキちゃんもハルミもいた。
「ハルミさんのお陰で毎日机に付いて勉強するようになったんですよ」と、お母さんはやたらハルミを持ち上げるけど、あれだけ課題を出されたら（脅されたら）、やらざるを得ないでしょ。
それに気をよくしたのか、保証人の機嫌取りか、ハルミはどこまでも親の味方だった。
「独り暮らしもしたいんでしょ？最低でも１２万はいるね。保険とか税金どうすんの。そしたら１５万はいるよ。そこに沢村くんと遊ぶお金は入ってないからね。仕事するって水商売？そんな事お父さんが許すと思う？彼の家も金持ちには見えないし。援交なんて……今時そこまでは無いと思うけど、何だっけ？パパ活？そんな怪しいお仕事がバレたら、あの優しい沢村くんとは終わりだよ」
ハルミは、1人暮らしのリスク＆女子の闇を露骨に強調。
さらに、親の前で堂々と沢村の名前を晒し、その存在を強固に打ち立てて説得してくる。
事実として……右川家において沢村は、親も兄貴もアキちゃん夫妻も公認の〝デキた彼氏〟となっていた。とうとう家までも……。
ハルミも、１回見ただけ、あのレポートだけでヤツの何がわかるというのか。よっぽどアキちゃんにスリこまれたに違いない。
では肝心の親はというと、最初から永世中立なお母さんは置いといて。
親父は、あの夏の〝振られました〟発言もあってか、沢村は〝ただ不愉快な男子〟としか写っていなかったはずだ。
「こんな大事な時期に女の子の事ばかり考えてるようじゃ、親御さんも心配だろうな。何といっても長男だから」と、何かと長男を贔屓にするという、長男言及発言が絶好調だった。
だが２学期以降、沢村が塾に行きだした辺りから、だと思う。アキちゃんが家に来て、「カズミは、沢村くんと今も仲良くやってるよ」と余計な事（？）を言ってくれたあたりから様子が変わってきた。
その後、北海道の兄貴との電話の中で「2人の事はもう知ってる。親父は出張るな。ほっとけ」と、あっさり言われ、親としてのプライドが傷つけられたらしい。
「兄貴まで知っていると言うのに、親にはどこまで隠すつもりだったのか！」
本音を言えば、とことん隠すつもりだった。
荒れ狂う親父を押さえつけて、事実を嫌々説明したんだけど、あたしが言うより、アキちゃんから言わせた方が何倍も説得力があったようで。
曰く、
カズミが大学に行く気になったのも、沢村くんのお陰。
カズミはずっと勉強を見てもらっていた。
カズミを心配して、今も、色々と世話してくれる。
「彼の性格上、いい加減な付き合いでは絶対有り得ない」
アキちゃんに太鼓判を押されて、親父はもう何も言えなくなった。
トドメに、
「彼は国立志望なんだけど、真面目に頑張ってるから、このまま行けば多分大丈夫だと思う」
そこで、親父は落ちた。堕ちてしまった。
それだけは言って欲しくなかった……。
「親御さんに色々言われてたけど、本人は国立受けるなんて感じじゃなかったのに。やっぱり最後には、親の云う事をちゃんと聞いたと言うことだろうなぁ」
「親は関係無かったよ」
事実は却下。
最後には、「なんとできた長男さんだろうな」と溜め息と共に絶賛する。どこまでも長男言及発言。
親を裏切り東大を蹴って平然としている兄貴に、今も悔しい気持ちを捨てきれないでいる。〝親の言う事を聞いて真面目に大学に通う優秀な長男〟という幻を、沢村に重ねているだけ。
親父は、「どんな子だったかな」と必死で思い出そうとしていた。
所詮、その程度だ。
夏は親父が酔っ払っていたし、その後に訪問先で素面で会ったとは言え、不愉快な男の顔なんか、すっかり忘れちゃってるに違いない。
ヒロちゃ～ん♪とか言ってたくせに。
「とにかく沢村くんだっけ？来週にでも、もう１度家に来てもらえ」と、恐ろしい事を言い出した。
「あっちも今は受験でそれどころじゃないよっ」と、刺す。
「そうだな。これからセンター試験も始まるし」と、アキちゃんが口添えして、親父は「ううむ」と唸ったまま、黙った。
助かった。受験も悪くない。言い訳には１番役に立つ。
それからの言い訳は、また考えよう。何だかんだ理由を付けて、とにかく、沢村が２度と家に来なければいい。
「センター試験か。なんとも輝かしい響きだなぁ」
親父はそこで遠い目をした。
「勉強に男女は関係ないんだから、せめてカズミは、国立長男くんに恥ずかしくない大学を目指しなさい」
親父は、決して、娘と彼氏との釣合いを心配しているのでは無い。
「彼氏もだけど、カズミはまず自分の事をちゃんとしないと」
親父の中で、沢村はあくまでも娘の踏み台だ。
思えば。
東大に受かった優秀（？）な兄貴と同じルートを強要されてきた。
兄貴と同じ塾に行け、同じ通信教育を受けろ、同じ問題集を買え。
もう、うんざり。
その兄貴が北海道に高飛びして以降、さすがの親父も大人しくなってホッとしてるのに、何でここに来て今度は彼氏と競争しなきゃなのか。
あの日。
クリスマスの次の日、ホテルで朝ごはんの最中、沢村から聞いた話に耳を疑った。
「おまえんとこからウチにさ、お歳暮っていうの？来たらしいんだけど」
まったく聞いていなかった。知らない所で何かが進行している。
「ファイル届けた事ぐらいで気遣わなくていいって。親も言ってるから」
「わかった、言っとく」
受験の世話のお返し、それは口実だ。
ちなみに何が送られて来たかを聞くと、ビールとか酒の寄せ集めだったとか。息子の偉業に当てたなら、お菓子とか食べ物でもいいはずだ。
その狙いは、彼の両親に向かっている。親御さん共々、これからも娘をよろしく！だ。間違いない。
「ご丁寧にお礼状が届いたわよ」
お母さんにハガキを見せられた。
大人の手書きで、お歳暮のお礼が書かれてある。
「とにかく、お歳暮なんて、そこまでする必要無いからね！」
これ以上、出張って来られたら困る。
家族会議の締めに、あたしは改めて親父にクギを刺した。
