God bless you!~第14話「森畑くん、と」
★★★右川カズミですが……付属のくせに
塾から少し歩いて、マックに来た。
ここはいつかのバイト先である。
午後8時、親が仕事が終わって車で迎えに来るまでの間、ここで時間潰しに、一応勉強している。
今日もハルミ節は炸裂した。
もう何の遠慮もなかった。楽しい会話も消えた。
右川さんだけがうるさい、と釘を刺されてまで揚々と雑談に興じるほど、あたしの感性は鈍くない。
そんな時、ふと向こうの席を見ると、見覚えのある顔があった。
いつかの付属野郎。
制服姿で、独りでいた。沢村の塾友達で……名前、忘れた。
藤谷とプリクラなんか撮って悦に入っていたヤツだ。
電車の中で遠まわしに嫌味を言ってくれたヤツでもある。
見ていると、どこか他校の女子に見つけられて、「写真いい?」とせがまれていた。携帯に向かってヘラヘラと笑う。
それを半分小馬鹿にして見ていると、向こうがこっちに気づいたらしい。
女子と並んで写る視線の先に、無愛想な顔でジッと見て返している。
写真が勿体ない。
当然といえば当然、こっちが席を立って御挨拶に伺う義理は無いのだ。
メンチ切っただけ。
「おう、久しぶりじゃん」
後ろから、マックの市原店長に声を掛けられた。
近況報告と雑談の後で、「頑張んなよ、受験生」と、ハイタッチ。
市原店長はバックルーム奥に戻っていく。
そこを、待ってましたとばかりに付属野郎が、のこのこ現れた。
強引にあたしの目の前に座ったかと思うと、
「そこのキミ。じゃなくて、チビ。どう見ても態度悪くねーか」
「って、いきなりやって来てケンカ売る方がタチ悪くないっすか。付属のくせに」
「相変わらず、口の減らねー女だな」
「あんたまさか、ヤンキー?シバくぞ、とか言うの?付属のくせに」
「いちいち付属付属いうな。何のオプションでもねーワ」
あたしは宿題を開いた。
こいつを無視して、耳にイヤフォンを付けようとしたとき、
「なに?おまえ潮音女子受けるの?マジか」
大学案内を目ざとく見つけられてしまう。「うっさいな」と、取り上げたら、次に、新里記念大学の冊子もブン盗られた。
「あ、いつかの藤谷だけどさ」と、女子をエサにして、その隙に冊子を取り返す。
「気に入ったんなら、あたし、いつでも繋いであげるよ」
「え?だってあの子は沢村と付き合ってんだろ」
あたしは思わず舌打ちした。
何で他校にまで無いこと無いこと、言うかな。
「それはあの女の妄想。あたしを差し置いて何考えてんの」
また別の案内を取り上げたまま、付属野郎の手が止まった。
騙されたみたいにポカンとしている。
「おまえ……え?え?何?もしかして沢村の事、好きなのか」
「当たり前でしょ」
付属はあたしの勢いに押されてか、かなり驚いている。
「うっわ。すっげー強気。てゆうか、沢村のヤツ、それ知ってんの」
「それは……」
いまさら、ではあるけれど……そう、あたしは、1度も彼にそう言う事を言った事が無い。歌に乗せて、やけくそで叫んだ事しかない。
「言わなくても、そんなの、あいつは何となく分かってると思うけど」
「いや~あいつは」と、付属野郎は口先で笑って、「結構そういう事、分かってねーぞ」
ちょっと考えた。
「やっぱマズいかな。それ1度も言ってないっていうのは。今からでも間に合うかな」
「キミ、もしかして超ヤバい人?」
そこで付属野郎は、「ははぁ、そういう事か」と、何やら思いついたように頷くと、
「取りあえずその藤谷って子が邪魔だから、まずはオレに押し付けて片付けちまえと。それ汚ねぇぞ!」
「別にいいでしょ。あんたも随分、気に入ってたじゃん」
付属野郎は訳知り顔、
「あー無理。無理無理。むーりー!自分からコクりもしないで、そんな小細工してるようじゃ、あの藤谷って子には絶対勝てないって」
「もともと勝負してないよっ」
その時、あたしのスマホが鳴った。親父だ。「迎えが来たから行かなきゃ。それ片しといて」と、付属野郎にゴミを押し付ける。
「おわっ!んだよっ」
「ちゃんと分別してね。付属なんだから。ゴミ同士仲良く」
「何か、ムカつくな」
ゴミに構ってる暇はない。あたしは先を急いだ。
その先の信号前で、親父が待っている。
「バスが来たら厄介だから早く来い」と言われて、急いで乗り込んだ。
「ていうか、そっちこそ早く出せ。軽トラックが恥ずい」
「シートベルトだ」
「分かってるよ、もう」
いつまでもガキだと思うな。
家までの道のり、車だとおよそ1時間ちょい。親父とは何を話すでもない。口を開けば、良い大学へ……マジで嫌だ。
外を眺めていると、そこは働く大人の世界。妄想もそこら中を飛ぶ。
信号待ちのスーツ姿の女性にみとれていた。
仕事カバン。だけどエレガント。パソコンとか、書類とか、メイク道具とか、中味が見てみたい。
信号が変わる一瞬前、カバンから手鏡を取り出して、目元を覗いて。
コンパクト・ミラー。100均でもディズニーでもない。ビジューがキラキラしてる。ジェシースティール……?
あーいうの、何処に売ってるんだろ。
ここはいつかのバイト先である。
午後8時、親が仕事が終わって車で迎えに来るまでの間、ここで時間潰しに、一応勉強している。
今日もハルミ節は炸裂した。
もう何の遠慮もなかった。楽しい会話も消えた。
右川さんだけがうるさい、と釘を刺されてまで揚々と雑談に興じるほど、あたしの感性は鈍くない。
そんな時、ふと向こうの席を見ると、見覚えのある顔があった。
いつかの付属野郎。
制服姿で、独りでいた。沢村の塾友達で……名前、忘れた。
藤谷とプリクラなんか撮って悦に入っていたヤツだ。
電車の中で遠まわしに嫌味を言ってくれたヤツでもある。
見ていると、どこか他校の女子に見つけられて、「写真いい?」とせがまれていた。携帯に向かってヘラヘラと笑う。
それを半分小馬鹿にして見ていると、向こうがこっちに気づいたらしい。
女子と並んで写る視線の先に、無愛想な顔でジッと見て返している。
写真が勿体ない。
当然といえば当然、こっちが席を立って御挨拶に伺う義理は無いのだ。
メンチ切っただけ。
「おう、久しぶりじゃん」
後ろから、マックの市原店長に声を掛けられた。
近況報告と雑談の後で、「頑張んなよ、受験生」と、ハイタッチ。
市原店長はバックルーム奥に戻っていく。
そこを、待ってましたとばかりに付属野郎が、のこのこ現れた。
強引にあたしの目の前に座ったかと思うと、
「そこのキミ。じゃなくて、チビ。どう見ても態度悪くねーか」
「って、いきなりやって来てケンカ売る方がタチ悪くないっすか。付属のくせに」
「相変わらず、口の減らねー女だな」
「あんたまさか、ヤンキー?シバくぞ、とか言うの?付属のくせに」
「いちいち付属付属いうな。何のオプションでもねーワ」
あたしは宿題を開いた。
こいつを無視して、耳にイヤフォンを付けようとしたとき、
「なに?おまえ潮音女子受けるの?マジか」
大学案内を目ざとく見つけられてしまう。「うっさいな」と、取り上げたら、次に、新里記念大学の冊子もブン盗られた。
「あ、いつかの藤谷だけどさ」と、女子をエサにして、その隙に冊子を取り返す。
「気に入ったんなら、あたし、いつでも繋いであげるよ」
「え?だってあの子は沢村と付き合ってんだろ」
あたしは思わず舌打ちした。
何で他校にまで無いこと無いこと、言うかな。
「それはあの女の妄想。あたしを差し置いて何考えてんの」
また別の案内を取り上げたまま、付属野郎の手が止まった。
騙されたみたいにポカンとしている。
「おまえ……え?え?何?もしかして沢村の事、好きなのか」
「当たり前でしょ」
付属はあたしの勢いに押されてか、かなり驚いている。
「うっわ。すっげー強気。てゆうか、沢村のヤツ、それ知ってんの」
「それは……」
いまさら、ではあるけれど……そう、あたしは、1度も彼にそう言う事を言った事が無い。歌に乗せて、やけくそで叫んだ事しかない。
「言わなくても、そんなの、あいつは何となく分かってると思うけど」
「いや~あいつは」と、付属野郎は口先で笑って、「結構そういう事、分かってねーぞ」
ちょっと考えた。
「やっぱマズいかな。それ1度も言ってないっていうのは。今からでも間に合うかな」
「キミ、もしかして超ヤバい人?」
そこで付属野郎は、「ははぁ、そういう事か」と、何やら思いついたように頷くと、
「取りあえずその藤谷って子が邪魔だから、まずはオレに押し付けて片付けちまえと。それ汚ねぇぞ!」
「別にいいでしょ。あんたも随分、気に入ってたじゃん」
付属野郎は訳知り顔、
「あー無理。無理無理。むーりー!自分からコクりもしないで、そんな小細工してるようじゃ、あの藤谷って子には絶対勝てないって」
「もともと勝負してないよっ」
その時、あたしのスマホが鳴った。親父だ。「迎えが来たから行かなきゃ。それ片しといて」と、付属野郎にゴミを押し付ける。
「おわっ!んだよっ」
「ちゃんと分別してね。付属なんだから。ゴミ同士仲良く」
「何か、ムカつくな」
ゴミに構ってる暇はない。あたしは先を急いだ。
その先の信号前で、親父が待っている。
「バスが来たら厄介だから早く来い」と言われて、急いで乗り込んだ。
「ていうか、そっちこそ早く出せ。軽トラックが恥ずい」
「シートベルトだ」
「分かってるよ、もう」
いつまでもガキだと思うな。
家までの道のり、車だとおよそ1時間ちょい。親父とは何を話すでもない。口を開けば、良い大学へ……マジで嫌だ。
外を眺めていると、そこは働く大人の世界。妄想もそこら中を飛ぶ。
信号待ちのスーツ姿の女性にみとれていた。
仕事カバン。だけどエレガント。パソコンとか、書類とか、メイク道具とか、中味が見てみたい。
信号が変わる一瞬前、カバンから手鏡を取り出して、目元を覗いて。
コンパクト・ミラー。100均でもディズニーでもない。ビジューがキラキラしてる。ジェシースティール……?
あーいうの、何処に売ってるんだろ。