God bless you!~第14話「森畑くん、と」
★★★右川カズミですが……3回目だった
3回目だった。
「彼女じゃなくて悪かったな。貧乏人にオゴってやるよ。オレ金持ちだから」
友好的すぎて正直キモい。
さらに、天狗が過ぎて、レジの店員さんがドン引きしている。
オゴりというなら、こっちは奮発して、ダブルチーズバーガーとサラダのセット。ゴチ。
森畑は市原店長を見つけて、「こないだはどうも」とか言っている。
急に気前よくオゴってくれるとは、沢村の彼女だからムゲにもできないと賢くなったのかもしれない。
と、またしても〝沢村のついで人生〟を垣間見たような。
今日は、森畑と受験勉強の話になった。
「オレらはさ、一極集中キレッキレでやるんだよ。やっぱ朝型だな。その方が絶対良いって」
そんな硬っ苦しいアドバイス。早起きと聞くだけで、耳が痛くなる。
ちょっと息抜きと思って入ったのに、さっそく受験の話かよ。
だけどオゴってもらっといてムゲにもできないと、我慢して聞いていた。
「吉凛は、タレント教授が多過ぎる。多分、講義は大学出ても使いモノになんない」と、お次はあたしが受ける大学にダメ出しが始まる。
クソつまんねー……。
あたしはチーズバーガーにかぶり付きながら、森畑の大学あるあるに耳を傾けていた。
恐らくだけど、沢村も塾で、こんな感じで聞き流しているんだろうな。
「新里なんかいいんじゃない?栄養学科とか、最近伸びてるし」
とかって。
〝食べる事が好き〟
ただそれだけで志望したら、おそらく血を見るな。
「潮音女子は結構荒れてんゾ」と来て、「何が?どういう事?」
そこは素通りできなかった。
ハルミが今1番推しの、何が荒れてるのか、ちょっと気になる。
「評判が、あんま良くないんだよ。ランク上の就職は大変かもな」
在学中にたくさんバイトして、気に入った所から会社に潜り込もうと企んでいるあたしにとっては、どこでも同じという気がした。大学は、今のあたしには腰掛けだ。
森畑は、潮音と吉凜、2つを見比べて、
「どっちにしても港北大に近いな。どこまでも沢村なんだな」
「そういう訳じゃ……実際どこでもいいけどね。伐ヶ丘でも吉凛でも」
ここでウチの英語の原田先生の話をした。
「沢村が好きなら国立行け、とか抜かしてさ。5教科なんて出来る訳ないのに」
「お互いの環境なんか違ってる方がいいって。同じ大学行ってさ、そこでちょっと好い男なんか現れたら面倒くさいじゃん」
「そんな奴、現れないだろうね。そんな気がしてる」
「おまえ、とことんゾッコンだな」と森畑は目を丸くした。
「確かにあいつ、いいヤツだから。それだけで掴んでおきたい気持ちも分かるけど」
ヌケヌケと言う。まったく何処いっても、みんな騙されている……かと思っていたら、「あいつは得だよな」と、そこからまるでいつかのハルミの如く、「先生にも女子にもウケが好くてさ。おまえもこれから続くとして、大変だと思うけど」と、森畑はこちらに一様の理解を見せた。
と見せて、
「あいつ真面目だし、冗談も通じるし、ラブラブの彼女も居て、他の女子にガツガツしないじゃん。そこがまた好く見えるっていうか。狙ってやってる訳じゃないから、悔しいぐらいに自然体だし」
「そういう所なんだろ?」と来て、「うん」と頷いた。
至極ごもっともで、その通りかもしれない。
でもさ。
「あいつ意外と、俺様的なとこがあんだよね。なかなか強引っていうか」
「つまり、そういうところも、おまえのド真ん中って事か」
「うーん」と、あたしは考え込んだ。
彼氏かっけ~♪と、それを都合よく受け入れた事は1度も無かった。
あんた天狗かよ!と、いつも突っ込んでいる。
「藤谷って子は、どこの大学だっけ?」
「修道院だけど」
「あ、そうだそうだ。確かそうだった。そういえば前に聞いたことがあったよ」
前に?
あの時のゲーセンで聞いたのかな。
だとしても、そこまで遠い目は必要ない気がしたけど。
急に藤谷なんかの話題をブッ込んでくるもんだから、ひょっとして今までのコチラ寄り発言は、あたしに頼りかかる前振りかと。
まぁ、繋いでやらない事もないけど。(って、OL彼女はどうすんの。)
森畑は、「おまえさ」と、不意に真顔になった。
「お互い受験終わったらだけど、2人でどっか行かない?」
あたしは森畑をじっと見た。
……これって、何。
あたしを誘ってるのか。
「こういう強引も、新鮮でいいだろ?」と、森畑は残りのアイスコーヒーを一気飲みした。こんな寒いのにアイスかよ。それも一気によく飲めるな。頭キーンとかも無さそうだし。
ぢゃなくて。
あんたは沢村の友達のはず。そしてOLの彼女もいるはず。
チャラい。そしてクズ。とはいえ、沢村の友達だ。ムゲな言い方もできない気がして、「うん、行こ行こ。沢村も一緒にね」と受け流した。
「だよな。ま、そうなるよな」と半分笑いながら森畑は引き下がる。
それに油断した。
突然、あたしはキスされた。
本当に一瞬だった。辺りをすぐに見回す。
あまりに素早くて誰も気に留めていない。
「これ、オレの」
勝手にこっちのスマホを操って、QRコードをチャージした。
「こういう強引もありだろ」と笑って、「いつでも呼んでくれよ。オゴってやるから」
そう言って、こっちのゴミも一緒にまとめて、去って行った。
……気のせい。
と、信じても許される気がする。
こんな誘惑らしきもの。
正直、戸惑う。いや、単に軽いノリで誰にでも言ったりやったりしてるのかもしれない。森畑には、そういうチャラい雰囲気が最初からあった。
友達の彼女に平気でキスする男。
2人は一体どこまでの友達なのか、正直疑うよ。
こんな事、沢村は絶対気を悪くする。森畑の登録は、すぐに削除した。
気が付けば、アキちゃんの時と同じだ。
沢村はどう思うだろうか。
沢村は嫌がる筈だ。だったら、やらない。
同じように、そうやって決めている自分がいる。
いつの間にか、沢村がアキちゃんに追い付いていると、思いの強さを知る時だ。
沢村はもうじきセンター試験が始まるとかで、あんまり学校には出てこない。だから学校でも会えない日が続いている。
結構寂しいな、と思った。
森畑のキスは、沢村を思い出した。
というか、沢村と違う。それが、はっきりと分かった。
沢村以外と接して、初めて分かるその違い、である。
それは唇に触れるまでの、わずかな迷い。キスの間に変わる、掴んだ腕の強さ。終わった後まで、あたしに気を使う何処までも真面目な顔。
そんなものは森畑のキスには無かった。
大体、沢村がこんな人前でキスなんか絶対有り得ない。
森畑のそれは、今思えば、唇だったか顎だったか、どっちでも同じだという気がしてくる。それだけアッサリしたもの。
海外行けば、挨拶程度のレベルとしか。

1月は1番最初に去り、2月は逃げるように去り、3月はサッと去る。
1番最初に去っていく1月。
あたしは何か忘れているような気もした。

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